複合材料・多結晶材料の平均挙動モデル
土木分野でも,複合材料は適材適所の観点から有望な材料である.
しかしその開発・設計に当たって,精度良く巨視的な(平均的な)挙動を予測する
ツールを用いているとは限らない.設計段階では高い精度は求められないが,
しかし「できれば近く,せいぜい遠からず」の精度は欲しい.
また配合の設計のためには,できるだけ簡易な,
可能なら解析的な(コンピュータを用いないといけないような複雑な数値的な
方法ではない)手法が望まれる.
今までたくさんのモデルが提唱されているが,
我々は図のように,3種類の材料のモデルの中の一つの材料の体積を零にする
極限モデルで二相材料の平均挙動の予測モデルを提案した.
右の図が,比較的材料定数比が小さい二相材料の場合の予測値(実線)である.
破線などは既存の結果であるが,既存の対になっている結果の間に位置する結果を
本手法は与える.
これは実は Hill の self-consistent 法による予測(図中の `SC' と
記された長い破線)に,良く似た特性を持つことがわかった.
ただし,空隙のような特殊な場合には Hill の方法はうまくいかないが,
我々の方法は,それよりは安定した解を誘導してくれることもわかった.
下の図はヤング率とポアソン比についての実験値との比較である.
実験値は森・田中のオリジナル・モデル付近ではあるが,
若干 self-consistent 法による予測値側に分布している.
我々の方法による解は,疎な分布では森・田中に,
体積比率がやや大きくなると self-consistent 側に近づき,
実験結果と非常によい整合を見せている.
同様の考え方を弾塑性挙動に適用したのが
次の図です.
二つの非弾性メカニズムを持つ材料モデル
次の図は,地盤に直接基礎を設置し,
その基礎を地盤に押し込んだときに生じると思われている,
地盤内の局所的なせん断変形の分布を示したものである.
地盤材料は砂等のような非連続体であるが,
少なくともその巨視的な(遠くから観た)挙動を数値予測する場合には,
連続体モデルが用いられることが多い.
しかし,古典的な金属材料モデル等の一つの非弾性メカニズムを用いた場合には,
実験でも観察されるような上図のような局所変形を精度良く予測することが難しい.
我々は,古典的な非関連流れ則に粒粒性を考慮する非共軸塑性モデルを付加し,
さらにそれに微視的なすべりを加えることによって,数値予測を安定化した.
上の図は,異なる3種類の内部摩擦角ごとの(右の方が大きい角度)
押し込み問題の局所変形の予測である.
実験で観察される複雑なせん断変形をうまく予測できており,
内部摩擦角と局所変形帯の向きとの関係も実験観察を良く表している.
対称載荷の動画
非対称載荷の動画
同じモデルで,基盤の活断層がすべったときの,
その上の堆積層内に発展する局所変形を示したのが次の図である.
上が60度正断層,下が30度逆断層.
複合材料の簡易有限要素
上述の一つ目のテーマの手法は確かに便利ではあるが,
設計の中盤においてはもう少し複雑な内部の微視構造を考慮して,
複合材料の平均的な挙動を予測する必要がある.
そこで,特異摂動法を基本にして微視挙動と巨視挙動をつなぐという,
とても洗練された「均質化法 `Homogenization'」と呼ばれる著名な手法の真似をし,
数学的な根拠は曖昧なまま,有限要素の積分点ごとに解析的な平均化手法を
適用することを考えた.
左の図は,介在物の形状比の異なる二種類の複合材料で,介在物の
体積比率が変動したときの応力変動を,確率有限要素法(数値的な正則摂動法を
基礎としている)で求めたものである.
積分点の材料の平均挙動を,
介在物の形状比や体積比率等の微視構造パラメータの陽な式で書くことができるため,
全体剛性の微視構造パラメータによる変動を比較的容易に求めることができる
利点を活かした結果である.
右の図は同じ利点を活かして,3 パネルに分けた単純梁の各区間の
補強繊維の体積比率の最適化を実施したものである.
最適化の目的関数は
とし,与えた外力 F に対する剛性 K の最大化である.
ただし,体積比率の総和に制約条件を付けた.
目的関数は右図のように下に凸の関数になっており,
この場合は 4 回目に最適解が求められている.
ちなみに,最適化における繊維の体積比率の初期値は3%で始めて,
最適解はf1=1.1%, f2=3.9%であった.
マルチスケール解析による材料特性の非現象学的モデル
材料の構成関係(荷重と変形の関係)や破壊の基準は,通常,要素実験の結果に基づきモデル化されます.しかし,それらは材料の微視的な構造が支配しています.ミクロとマクロを結びつけることができれば,材料の微視的メカニズムを考慮したより精度の高いシミュレーションが可能になります.また,材料の設計を効率的に行うこともできるようになります.本研究室では,マルチスケール法と呼ばれる手法を用いて,材料の微視的構造からその力学特性をモデル化する方法を開発しています.
下の計算例が,セル構造体と呼ばれるハニカム材料の面内圧縮の解析です.ハニカム構造は,軽くて剛性が高く,エネルギー吸収性能に優れているので様々な用途に使用されています.セル構造体は,圧縮を受けると座屈します.そのため,巨視的に見た応力ひずみ関係が強い非線形性を持ちます.マルチスケール法を用いると,そのような材料を,微視的なメカニズムを考慮し,非現象学的にモデル化することができます.
ミクロスケール解析による非現象学的応力ひずみ関係 |
荷重-変形関係(下図参照) |
マルチスケール解析 | 通常の有限要素法 |
卒業論文タイトル (過去三年間)
- 2013
- 二相複合材料平均弾性の解析的予測手法の一般化と改善の試み (鈴木 貴大)
- 鋼トラス橋の冗長性確保のための格点部の性能に関する一考察 (瀧本 耕大)
- 2014
- 複合材料の平均異方弾性の近似的self-consistent予測 (新井 晃朋)
- 非線形有限要素解析による連続多主桁橋の冗長性評価の試み (熊谷 宏之)
- 周期境界条件を用いたせん断遅れの半解析的手法に関する基礎的検討 (西井 大樹)
- 非線形有限要素解析による連続多主桁橋の冗長性評価の試み (熊谷 宏之)
- 2015
- せん断抵抗特性の違いからみた亜弾性に用いる応力速度の選択 (藤本 真明)
修士論文タイトル (過去三年間)
- 2013
- 増分弾塑性構成則に用いる亜弾性の応力速度の特性と変形の局所化 (荒川 淳平)
- 合成部材の非線形せん断特性の数値的評価 (瀬戸川 敦)
- 2014
- 橋梁のノージョイント化に用いた延長床版基部と背面地盤の相互作用の数値的検討 (秋葉 翔太)
- 非線形有限要素解析による鋼ランガー橋の冗長性に関する基礎的考察 (川村 航太)
- 材料界面の摩擦・付着を考慮した合成部材のせん断特性評価 (黒澤 明史)
- 部材破断の動的効果を考慮した鋼トラス橋の耐荷力の数値的評価 (塚田 健一)
- 非線形有限要素解析による鋼ランガー橋の冗長性に関する基礎的考察 (川村 航太)
- 2015
- 複合材料の塑性変形に伴う異方性を考慮した近似的セルフコンシステント予測 (鈴木 貴大)
- 非線形リダンダンシー解析における鋼トラス橋の部材破断の動的効果の定量的評価 (瀧本 耕大)