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9.2 3次元への一般化

9.2.1 降伏条件--状態の定義

前節で概説した1次元における塑性の考え方を3次元に拡張する。 ここではまず, 現在最も基本的なモデルとして扱われ,主に鋼等の等方均質な 多結晶金属材料に対して用いられているPrandtl-Reussのモデルを 構築しておこう。 まず運動学上の設定として,式(9.4)と同様, ひずみ増分がその弾性部分と塑性部分に分解されるものとする。 つまり, $\dot{\fat{\epsilon}}\super{p}$をひずみ増分の 塑性成分とし,弾性成分を $\dot{\fat{\epsilon}}\super{e}$と記したときに, 総ひずみ増分が

\begin{displaymath}
\dot{\epsilon}_{ij}=
\dot{\epsilon}_{ij}\super{e}+\dot{\epsi...
...}=
\dfrac12 \left(\D{\dint u_i}{x_j}+\D{\dint u_j}{x_i}\right)
\end{displaymath} (9.21)

のように分解される。なお,上付きのドットは増分を表しており, ここまで用いてきた$\Delta$あるいは微分$\dint$の代わりであり, 以下この上付きドットで増分を表すことにする。$\dot{\fat{u}}$は速度と 捉えてもいいが,この章の塑性論では「時間」は 「変形(応力)履歴」であり実際の時間ではないし 時間の単位を有しない無次元量9.8なので,$\dot{\fat{u}}$は 実際には変位増分である。つまり,この章では

\begin{displaymath}
\dot{\fat{u}} \sim \Delta \fat{u} \sim \dint \fat{u}, \qquad...
...し,} t=\mbox{変形(応力)
履歴を表す単調増加無次元パラメータ}
\end{displaymath}

のように,速度と増分と全微分をすべて増分を表す記号として用いる。 上式(9.21)から明らかなように, 総ひずみ増分は式(3.16)を増分ひずみで 表した適合条件を満足する適合ひずみであるが, その弾性成分と塑性成分は共に「非適合ひずみ」 であること9.9には注意する。 またこの関係式は微小変形の枠組では全く問題は無いと考えていいが, 大変形の枠組の中でも,変形勾配の乗算則を 載荷の瞬間毎に「ある参照状態」において増分をとったものであれば, [厳密に[58]/近似的に[93]]成立9.10するもので, 本質的には変形勾配の乗算則と整合する考え方である。 詳細は節-12.2.2, 12.2.3を 参照のこと。

さて前節の実験観察の項で述べたように,鋼のような材料の場合は 一般に静水圧では塑性変形はほとんど発生しない。 したがって,塑性変形特性を支配しているのは,せん断変形および せん断抵抗が主であると考えるのが適切である。 ただし,式(9.16)前後で解説したように, 残留変形は変形履歴に従って累積することから,降伏条件を, その累積する変形あるいはひずみで規定することは 適切ではないだろう。このように考えると, せん断抵抗成分を代表している応力成分, すなわち,式(3.39)で定義した 偏差応力で降伏条件を与える方が適切であろう。 ただし,ある座標系での偏差応力テンソルの「成分」で その条件を与えることは,力学的にはまずいということは明らかだ。 というのも,材料の性質は,それを観察あるいは記述している人間の都合で 導入した座標系には依存しない はず9.11だからである。 したがって,座標とは関係の無い量として,偏差応力の主値(主偏差応力)か 不変量を用いるのが適切であろう。 偏差応力式(3.39)の 第1不変量($J_1$と記すことにする)は,式(3.35)の応力の 不変量に準じて算定すると 零 $\displaystyle \left(J_1\equiv\sum_{k=1}^3 \sigma'_{kk}=0\right)$に なるが,それ以外の第2, 3不変量は

\begin{twoeqns}
\EQab \overline{\sigma}^2 \equiv J_2 \equiv
\dfrac12\sum_i\su...
...invariant (不変量)!third - of deviatoric stress (偏差応力の第3)}
\end{twoeqns}

(9.22)



と定義できる。この$J_2$の定義と 式(3.35b)で定義した応力の第2不変量$I_2$とでは 符号が異なっているので注意する。 また主偏差応力を$s$と置くと,それを求める式は

\begin{displaymath}
s^3-J_2 s-J_3=0
\end{displaymath}

となる。3次方程式の根の公式から,主偏差応力

\begin{displaymath}
s\subsc{i}=2\sqrt{\dfrac{J_2}{3}} \cos \theta_s, \quad
s\su...
...{\dfrac{J_2}{3}} 
\cos \left(\theta_s+\dfrac{2\pi}{3}\right)
\end{displaymath} (9.23)

と求められる。ここに$\theta_s$は, 後述の式(9.55)のLode角とも関係するが

\begin{displaymath}
\cos 3\theta_s=\dfrac{3\sqrt{3} J_3}{2 J_2^{\frac{3}{2}}}, \quad
0\le\theta_s\le\dfrac{\pi}{3}
\end{displaymath} (9.24)

を満足する角である。もちろん $s\subsc{i}+s\subsc{ii}+s\subsc{iii}=0$である。 これを用いると次のような降伏条件が考えられる。

ここではまず,後者の第2不変量だけを用いるそのMisesのモデルを説明しよう。

ベクトルのノルムの拡張として解釈すると, $\overline{\sigma}$は 偏差応力の一種のノルムと考えてもよさそうだ。 特別な例として,$x_1$-$x_2$面内の単純なせん断応力状態で ある場合を考えると,応力テンソル成分は$\sigma_{12}$のみが非零なので, これを上式に代入すると $\overline{\sigma}=\left\vert\sigma_{12}\right\vert$となる。 このことからも, $\overline{\sigma}$が せん断抵抗を代表した指標であることがわかる。 なおこの文書では,あとで定義する $\widetilde{\sigma}$の名称と同じく, こちらを「相当応力」 と呼ぶことがあるので注意して欲しい。 この $\overline{\sigma}$がある 限界値に達したときに塑性変形が発生すると考えれば

\begin{displaymath}
f(\overline{\sigma},\overline{\epsilon}\super{p})\equiv
\ov...
...u\subsc{y}(\overline{\epsilon}\super{p}), \quad\to\quad
f=0
\end{displaymath} (9.25)

降伏条件 になる。弾性状態は$f<0$で定義され,$f>0$の状態は許容されない。 この降伏条件はMisesの降伏条件 とも呼ばれている。 この$f$降伏関数 であり,$\tau\subsc{y}$せん断降伏応力 である。 $\overline{\epsilon}\super{p}$は,塑性変形が履歴に依存することを 陽に表すために定義されたスカラー量であり,後述のように 塑性仕事増分の物理的意味を考慮すると, 相当応力の定義式(9.22a)に対応させて

\begin{displaymath}
\overline{\epsilon}\super{p}\equiv\int_{\mbox{\scriptsize 履...
...}} \dint t
\index{=epsilonbarp@$\overline{\epsilon}\super{p}$}
\end{displaymath} (9.26)

で定義すればいい。前述のように$t$は時間ではなく, 履歴を表す無次元の単調増加パラメータである。 これを累積塑性ひずみ (つまり塑性ひずみ増分の第2不変量9.12相当量の累積9.13)と呼ぶことにする。 ただし以下では,後述の $\tilde{\epsilon}\super{p}$と同様, この累積塑性ひずみを「相当塑性ひずみ」 と呼ぶこともあるので注意して欲しい。 定義中に用いた積分は,履歴に沿って累加させることを表している。 なお,この累積塑性ひずみはひずみテンソルのせん断成分の2倍, つまりいわゆる工学ひずみ に相当している(前節1次元の場合の$\gamma$)ことに注意する。 硬化に伴って降伏応力が 変化することを示すために$\tau\subsc{y}$を 累積塑性ひずみの関数で与えたのである。

一方,鋼の1軸引張り試験のように,例えば$x_1$方向の 応力$\sigma_{11}$だけが非零であるような場合には, 式(9.22a)は $\overline{\sigma}^2=\slfrac13 (\sigma_{11})^2$と なるので,降伏条件は $\left\vert\sigma_{11}\right\vert
=\sqrt{3} \tau\subsc{y}$となる。 このことから,引張り降伏 応力 $\sigma\subsc{y}$とせん断降伏応力が

\begin{displaymath}
\sigma\subsc{y}=\sqrt{3} \tau\subsc{y} \qquad \mbox{(Mises)}
\end{displaymath} (9.27)

という関係にある9.14ことがわかる。 このため,式(9.22a) (9.25)の代わりに

\begin{displaymath}
f\equiv \widetilde{\sigma}-\sigma\subsc{y}(\tilde{\epsilon}...
...,\overline{\sigma}^2
\index{=sigmatilde@$\widetilde{\sigma}$}%
\end{displaymath} (9.28)

のように降伏関数を定義している場合もある。 この $\widetilde{\sigma}$相当応力 と呼ばれ9.15ている。 構造解析における降伏の代表値としては,この引張り降伏応力の方が よく用いられる。この定義を用いる場合には, 後述の式(9.34)に示す塑性仕事増分の 物理的意味から,式(9.26)の累積塑性ひずみも

\begin{displaymath}
\tilde{\epsilon}\super{p}\equiv\int_{\mbox{\scriptsize 履歴}...
...}} \dint t
\index{=epsilontildep@$\tilde{\epsilon}\super{p}$}%
\end{displaymath} (9.29)

と定義し直しておく方がいい。これを相当塑性ひずみ と呼んでいる。定数$\sqrt{3}$だけの違いだから数値的なことは問題にはならないが, この文書では,降伏が微視すべりつまりせん断に主に 関わっていることから, $\overline{\sigma}$ $\overline{\epsilon}\super{p}$の 方を主に用いる。

図 9.15: 降伏条件--すべり系Bだけが 条件を満足して塑性変形の「向き」が決まる。
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(196.56,179)(220,-...
...250.96,124.96)(254.39,126.09)
(258,127)
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

このように, 塑性変形が主にせん断で支配されていることからも類推できるように, 降伏条件が満足されたあとの塑性変形は, 物体内部の非可逆的なすべり変形でモデル化できそうだ。 つまり,図-9.15に模式的に 示したように,外力の作用によって 物体内部に生じた応力成分の組み合わせが, ある特定な向きを持った面上9.16での 摩擦抵抗を無力にし,すべりの発生9.17が可能になるのである。 このように,ある面上の応力状態がすべりを 可能にした場合に「降伏条件が満足された」と判断でき, そこに塑性変形が生じると考えるのである。 したがって,節-9.1.3の摩擦とすべりで 説明したように,そのあとのすべり変形の向きはこの面の向き, つまり応力成分の組み合わせの向きで決まってしまう。 これは弾性変形には無い特性である。

図 9.16: 面心立方晶構造とすべり面

面心立方晶金属を例にとって,その微視的なメカニズムの簡単なモデルを 説明すると以下のようになる。図-9.16の左が 結晶構造を模したものであるが,この原子配置の最も稠密な面で すべり易い(転位が移動し易い)とされている。 このすべり面を右図に示した。三角形ABCの面がよく(111)面と 呼ばれるもので,その等価な面三つを網掛けで区別して示した。 この四つの面で正四面体を形成している。 そして,すべる方向は矢印の3方向AB, BC, CAに(負の方向も可能)なる。 合計で4面$\times$ 3方向,つまり12通り(負の方向も区別すると24通り)の すべりが可能な微視構造になっている。逆に,その面の向きのその方向の すべりしか可能にはならない構造になっていると考えるのである。 そしてこのうちの一つ以上のすべり面上で, 例えば式(9.25)を満足する応力状態になったときに降伏条件が満たされ, すべる(転位が動く)可能性9.18が 発生すると考えるのである。

9.2.2 流れ則--変形の変化則

降伏条件を満足したあとの抵抗特性は,前節でも述べたように一対一の 特性を持たないこともあって, ひずみ増分が応力等となんらかの関係にあるとする流れ理論 で与える必要がある。したがって抵抗特性は, 応力速度(増分)とひずみ速度(増分)を関係付けた増分理論 になる。 このように,現在の状態からどのように発展するのか, つまり増分や変化がどのように生じるのか記述したものを流れ則 あるいは発展則 と総称している。

流れ則の記述をHillの文献[34]からそのまま引用すると

まずSaint-Venantが1870年に

\begin{displaymath}
(\mbox{$\dot{\fat{\epsilon}}$の主軸})  \parallel
  (\mbox{$\fat{\sigma}$の主軸})
\end{displaymath}

と洞察し,Lèvy (1871)とMises (1913)が同様に

\begin{displaymath}
\dfrac{\dot\epsilon_{xx}}{\sigma'_{xx}}=
\dfrac{\dot\epsilon...
...yy}}=\quad\cdots\quad=
\dfrac{\dot\epsilon_{xy}}{\sigma'_{xy}}
\end{displaymath}

になるとした。その後Prandtl (1924)とReuss (1930)は, 弾性と塑性を分離して考える必要があるとして

\begin{displaymath}
\dfrac{\dot\epsilon\super{p}_{xx}}{\sigma'_{xx}}=
\dfrac{\do...
...\lambda\subsc{pr} \sigma'_{ij}, \quad
\lambda\subsc{pr}\ge 0
\end{displaymath} (9.30)

であるとした(Prandtl-Reussの式)。

のようになる。 つまり永久変形の変化 $\dot{\fat{\epsilon}}\super{p}$は 偏差応力$\fat{\sigma}'$と同じ方向に発生しようとする。 偏差応力が物理的にはせん断応力であることを思い出すと, この流れ則の式(9.30)は 摩擦とすべりで説明した式(9.15)と 同じで,永久変形はせん断変形であることがわかる。 また式(9.30)はいわゆる粘性の記述によく似ているが, 粘性とは異なり,右辺の $\lambda\subsc{pr}$は応力状態と応力増分に 依存した比例パラメータであり,単純な材料パラメータではない。 具体的に式(9.30)を式(9.26)に 代入して式(9.22a)を考慮すると

\begin{displaymath}
\dot{\overline{\epsilon}}\super{p}=
\sqrt{\sum_i\sum_j 2 \...
...frac{\dot{\overline{\epsilon}}\super{p}}{2 \overline{\sigma}}
\end{displaymath} (9.31)

となり, $\lambda\subsc{pr}$が応力と塑性ひずみ増分に 依存していることがわかる。 また,これが $\lambda\subsc{pr}$の物理的な意味である。

この式(9.30)等から, 塑性が弾性と本質的に異なっていることが明らかである。 すなわち,塑性の場合にはSaint-Venantが記述したように, 「塑性ひずみ増分が偏差(せん断)応力そのものと共軸で あろうとする」

\begin{displaymath}
\dot{\Delta}\super{p} \equiv 0, \qquad
\dot{\fat{\epsilon}}\super{p}  \parallel  \fat{\sigma}'
\end{displaymath} (9.32)

のに対し(共軸性 ,弾性の場合には式(3.40) (3.41)から明らかなように, 「弾性ひずみは応力と,また 弾性ひずみ増分は応力増分と共軸であろうとする」

\begin{displaymath}
\Delta\super{e} \propto \sigma_0, \quad
\fat{\epsilon}\supe...
...\fat{\epsilon}}\super{e}{}'  \parallel   \dot{\fat{\sigma}}'
\end{displaymath}

ことになる。 ここに, $\Delta\super{e}$, $\Delta\super{p}$はそれぞれ 式(3.14)で定義した体積ひずみの 弾性成分と塑性成分であり,$\sigma_0$は 式(3.38)で定義された平均応力である。 言い換えると,変形の増分に着目したときに, 「弾性ではその増分変形の向きも大きさも応力増分に直接関係している」が, 「塑性では,増分変形の向きは応力そのものの向きに支配されるが, その増分変形の大きさには応力増分も影響を与える」ことになる。 これは,次のような塑性の「内部メカニズム」を考えると, 少しはわかり易いかもしれない。

図 9.17: 流れ則--塑性変形の向き$\xi $-$\eta $は 応力そのもの$\fat\sigma$で決定される。
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(204,157)(198,-5)
...
...pt\rm${\dot{\epsilon}}^p_{\xi\eta}>0$}}
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

つまり,図-9.15を用いて説明したように, ある面上で「降伏条件」が満足された場合, その面の向きでそのあとの塑性変形の向きは既に決定されてしまっている。 したがって,その後さらに外力を増やそうとした場合, このすべり面上でのすべり変形しか9.19生じようとはしないだろう。 このことから,その増分変形の向きは すべり出そうとするすべり面の向きで決定され,結局, 増分変形の向きは応力状態そのもので支配されることになる。 一方,図-9.17のように, 実際にすべり変形(増分)が生じるかどうかは, そこに発生する応力増分の向きと大きさに依存する。 この現象を記述するのが「流れ則」の部分である。

さてここで,塑性仕事増分 を用いて上述の共軸性について考察しておこう。 塑性仕事増分を,ある応力状態で,その応力が塑性ひずみ増分とする仕事で

\begin{displaymath}
\dot{w}\super{p}\equiv
\sum_i\sum_j   \sigma_{ij} \dot{\epsilon}\super{p}_{ij}
\end{displaymath} (9.33)

と定義する。流れ則の式(9.30)を 式(9.33)に代入すると, 式(9.22a)の $\overline{\sigma}$あるいは 式(9.28)の $\widetilde{\sigma}$を用いて

\begin{displaymath}
\dot{w}\super{p}=2 \lambda\subsc{pr} \overline{\sigma}^2
= \dfrac23 \lambda\subsc{pr} \widetilde{\sigma}^2
\end{displaymath}

という関係が成立する。そこで,式(9.26)の 累積塑性ひずみ $\overline{\epsilon}\super{p}$あるいは 式(9.29)の相当塑性ひずみ $\tilde{\epsilon}\super{p}$の, それぞれの増分に式(9.30)の流れ則を代入すると

\begin{eqnarray*}
\dot{\overline{\epsilon}}\super{p} &=&
\sqrt{\sum_i\sum_j 
2...
...,\sigma'_{ji}}=
\dfrac23 \lambda\subsc{pr} \widetilde{\sigma}
\end{eqnarray*}

となる。この式から求められる $\lambda\subsc{pr}$を上式に代入すると

$\displaystyle \dot{w}\super{p}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_i\sum_j   \sigma_{ij} \dot{\epsilon}\super{p}_{ij}=
\overl...
...r{p}=
\widetilde{\sigma} \dot{\tilde{\epsilon}}\super{p}
\quad \Leftrightarrow$ (9.34)
    $\displaystyle \mbox{(内積)}=\mbox{(ノルム同士の積)} \times \cos(\mbox{内角})
=\mbox{(ノルム同士の積)}\quad \left[ \because \mbox{(内角)}=0 \right]$  

という関係を得る。これが共軸性 が成立する場合の大事な特性である。

式(9.22a)の $\overline{\sigma}$がせん断応力に相当し, 式(9.28)の $\widetilde{\sigma}$が単軸応力に 相当していることを念頭に置けば,上の塑性仕事増分の表現から, 式(9.26)の 累積塑性ひずみ $\overline{\epsilon}\super{p}$と 式(9.29)の相当塑性ひずみ $\tilde{\epsilon}\super{p}$の 物理的な意味は明らかであろう。ここでは,もう少し陽な形でその意味を 明らかにしておく。 例えば塑性変形が純せん断状態にあって $\dot\epsilon{}\super{p}_{12}=
\dot\epsilon{}\super{p}_{21}=\dfrac{\dot\gamma_0}{2}>0$以外の成分が 零であれば,式(9.26)の 累積塑性ひずみ増分 $\dot{\overline{\epsilon}}\super{p}$

\begin{displaymath}
\dot{\overline{\epsilon}}\super{p}=
\sqrt{\sum_i\sum_j 
2\...
...n{}\super{p}_{12}\right)^2}
=\left\vert\dot\gamma_0\right\vert
\end{displaymath}

となる。したがって前述のように,累積塑性ひずみは せん断工学ひずみに相当することがわかる。 また,単軸応力状態 $\sigma_{11}=\sigma_0$で降伏している場合には, 式(9.30)の流れ則から,例えば

\begin{displaymath}
\dot{\epsilon}\super{p}_{11}=\dfrac23 \lambda\subsc{pr} \s...
...{22}=
\dot{\epsilon}\super{p}_{33}=-\dfrac12 \dot{\epsilon}_0
\end{displaymath}

と考えればいいから, 式(9.29)の相当塑性ひずみ 増分 $\dot{\tilde{\epsilon}}\super{p}$

\begin{displaymath}
\dot{\tilde{\epsilon}}\super{p}=
\sqrt{\sum_i\sum_j 
\dfra...
...{\epsilon}_0}^2\right)}
=\left\vert\dot{\epsilon}_0\right\vert
\end{displaymath}

となる。 したがって,相当塑性ひずみは単軸の伸び縮みひずみに相当することがわかる。


9.2.3 増分型構成方程式

塑性変形は,常に降伏条件が満足し続ける場合に 発生しているので,そのような変形が継続する間は$f=0$で あり続けなければならない。 言い換えると,$f$は塑性変形履歴中には変化しないので,その変化率も零

\begin{displaymath}
\dot f=0
\end{displaymath} (9.35)

を満足しなければならない。この条件を整合条件 と呼んでいる。この式に,降伏関数の具体的な式(9.25)を 代入すると,全微分をとるのと同じ操作によって

\begin{displaymath}
\dot f=\sum_i\sum_j \D{\overline{\sigma}}{\sigma_{ij}} \dot...
...ot{\epsilon}\super{p}_{ij} 
\dot{\epsilon}\super{p}_{ij}} =0
\end{displaymath}

となる。最後から二番目の式の第2項の平方根の中に 式(9.30)の 流れ則を代入し,式(9.22a)から

\begin{displaymath}
\D{\overline{\sigma}}{\sigma_{ij}}=
\dfrac{\sigma'_{ij}}{2 \overline{\sigma}}
\end{displaymath} (9.36)

であることを考慮して上式を整理すると

\begin{displaymath}
\dot f=
\sum_i\sum_j \D{\overline{\sigma}}{\sigma_{ij}} \do...
...silon}\super{p}} 
\lambda\subsc{pr}   2\overline{\sigma} =0
\end{displaymath}

となることから, $\lambda\subsc{pr}$

\begin{twoeqns}
\EQab \lambda\subsc{pr}=\sum_k\sum_l \dfrac{1}{H} 
\dfrac{\sig...
...{y}(\overline{\epsilon}\super{p})}
{\overline{\epsilon}\super{p}}
\end{twoeqns}

(9.37)



と求められる。ここに$H$硬化係数 である。これを 式(9.30)の流れ則に代入すれば,塑性ひずみ増分が

\begin{displaymath}
\dot{\epsilon}\super{p}_{ij}=\sum_k\sum_l \dfrac{1}{H} 
\d...
...{ij} \sigma'_{kl}}{4 \overline{\sigma}^2} \dot{\sigma}_{kl}
\end{displaymath} (9.38)

と求められる。形の上では,1次元の場合の式(9.13)とよく 整合していることがわかる。 当然のことだが,塑性変形はせん断成分が主であるとしたので,塑性的な体積変形は 零 $\left(\sum_k \dot{\epsilon}\super{p}_{kk}\equiv 0\right)$になっている。 したがって,塑性変形は非圧縮性 を有している9.20ことになり,そういう意味では「水9.21」の 変形と同じである。

以上の結果を用いて前節の「載荷」「除荷」を定義し直そう。1次元の場合には 単純に応力増分が $\tau\cdot\Delta\tau$の正負あるいは零のいずれを 満足するかで,載荷と除荷の二つの状態を区別できた。3次元の 場合は式(9.37a)の $\lambda\subsc{pr}>0$が載荷条件であり, 軟化が生じない$H>0$の場合には, $\left(\sum_i\sum_j \sigma'_{ij} 
\dot{\sigma}_{ij}>0\right)$が載荷条件になる。したがって

$\displaystyle \mbox{弾性:}$ $\textstyle \quad$ $\displaystyle \lambda\subsc{pr}=0 \quad
\mbox{もし} \quad f<0$  
$\displaystyle \mbox{除荷:}$ $\textstyle \quad$ $\displaystyle \lambda\subsc{pr}=0 \quad
\mbox{もし} \quad f=0 \quad \mbox{かつ} \quad
\sum_i\sum_j \sigma'_{ij} \dot{\sigma}_{ij}<0$  
$\displaystyle \mbox{中立載荷:}$ $\textstyle \quad$ $\displaystyle \lambda\subsc{pr}=0 \quad
\mbox{もし} \quad f=0 \quad \mbox{かつ} \quad
\sum_i\sum_j \sigma'_{ij} \dot{\sigma}_{ij}=0$ (9.39)
$\displaystyle \mbox{載荷:}$ $\textstyle \quad$ $\displaystyle \lambda\subsc{pr}>0 \quad
\mbox{もし} \quad f=0 \quad \mbox{かつ} \quad
\sum_i\sum_j \sigma'_{ij} \dot{\sigma}_{ij}>0$  
$\displaystyle \mbox{許容されない状態:}$ $\textstyle \quad$ $\displaystyle f>0$  

と定義すればいい。ここで中立載荷 とは,新たな塑性ひずみは発生しないまま,降伏条件を満足した 異なる応力状態に変化することを意味している。 この偏差応力テンソルと応力増分テンソル9.22の 積の和が正である条件 $\left(\sum_i\sum_j \sigma'_{ij} 
\dot{\sigma}_{ij}>0\right)$は一種の内積の正値性なので,幾何学的に解釈すると 「載荷は偏差応力(せん断応力)と 応力増分の向きが90度以内(ほぼ同じ方向)にある」ことを 意味しており,1次元の載荷状態の定義の単純な拡張になっていることがわかる。

一方,弾性成分はHookeの法則の式(3.55)を 増分同士の関係に拡張した式(3.87)で 与えられるものとすればいいだろう。つまり

\begin{displaymath}
\dot{\epsilon}\super{e}_{ij}= \dfrac{1}{2\mu} \dot{\sigma}_...
...dfrac{1}{2\mu}
\right) \delta_{ij} \sum_k \dot{\sigma}_{kk}
\end{displaymath} (9.40)

とする。しつこいようであるが,この弾性部分は, 両辺のせん断成分を見ると, $\dot{\epsilon}\super{e}_{ij}$と 右辺の $\dot{\sigma}_{ij}$が同じ添え字$(ij)$を持っていることから, それ同士が同じ向きを持っていることがわかる。これに対して 式(9.38)から明らかなように, $\dot{\epsilon}\super{p}_{ij}$が 応力増分 $\dot{\sigma}_{kl}$ではなく偏差応力$\sigma'_{ij}$と 同じ添え字$(ij)$を持っている。 つまり,塑性ひずみ増分は応力増分ではなく 応力そのものと同じ向きを持っているのである。 最終的に,この二つの成分の式(9.38) (9.40)を,総ひずみ増分の式(9.21)に 代入すると

\begin{displaymath}
\dot{\epsilon}_{ij}= \dfrac{1}{2\mu} \dot{\sigma}_{ij}
+\d...
...{ij} \sigma'_{kl}}{4 \overline{\sigma}^2} \dot{\sigma}_{kl}
\end{displaymath} (9.41)

となる。

さて,塑性論はどうして増分量で表されているのかという質問をときどき聞く。 一つの変形状態で載荷と除荷の可能性があることも一つの理由だと思うが, 流れ則が積分可能ではないことが最も重要な理由であろう。 つまり上式(9.38)は一般には積分可能ではない。流れ則は, 速度を増分(微分)に置き換えた場合

\begin{displaymath}
\dint \epsilon\super{p}_{ij}=\sum_k\sum_l \dfrac{1}{H} 
\d...
... \sigma'_{kl}}{4 \overline{\sigma}^2} 
\dint {\sigma}_{kl}
\end{displaymath}

と解釈でき,例えば $\dint\epsilon\super{p}_{11}$を例にとって展開し

\begin{displaymath}
\dint\epsilon\super{p}_{11}=
F_{1} \dint\sigma_{11}+
F_{2}...
...}+
F_{5} \dint\sigma_{31}+
F_{6} \dint\sigma_{12}
\eqno{(a)}
\end{displaymath}

と書いたときに,ちょっと面倒な計算が必要になるが,最終的に例えば

\begin{displaymath}
\D{F_{1}}{\sigma_{22}}\neq \D{F_{2}}{\sigma_{11}}, \quad
\D{...
...gma_{23}}\neq \D{F_{4}}{\sigma_{22}} \quad \cdots \mbox{ etc.}
\end{displaymath} (9.42)

となっていることがわかる。 つまり上式($a$)は全微分形式にはなっていないことから,積分できない。 具体例を節-9.3.3に示した。 物理的に言えば,発生する塑性ひずみは載荷履歴に依存して結果が異なることになり, 例えばある同じ応力状態に至るまでの載荷の順序や量が違うと, 発生する総変形は異なってくるのである。 例えば(不可能だが)全く同じ粒界の配置を持つ多結晶体で, かつ転位が全く同じ場所にある二つの材料があったとしよう。 一つの材料は,$\sigma_{11}$$\sigma_{12}$が ある一定の比で $(\sigma_0, \tau_0)$に至るまで載荷したとする。 このとき粒界に達してしまった$N$個の転位に 名前を`d$_1$'から`d$_N$'のように付けたとする。 そこでもう一つの材料は,まず$\sigma_{11}$$\sigma_0$になるまで 載荷し,それを一定に保ったまま$\sigma_{12}$$\tau_0$に 至るような実験ができたとしよう。このとき,さっきの材料に あった`d$_1$'から`d$_N$'の転位はすべて粒界に至るだろうか。 ま,そういうことは無いだろう。 したがって塑性変形を伴う応答には履歴依存 が生じるのである。それをモデル化した流れ則なので, それも履歴依存のモデルになっている。 つまり塑性ひずみ増分は定義できるものの,塑性ひずみそのものは定義できず, 結局数値解析で小さい増分を加算し続けて塑性ひずみを算定せざるを得ない。 敢えて式で表現すると

\begin{displaymath}
\fat{\epsilon}\super{p}\equiv\kern -1.1em\mbox{\Large ×}
\...
... \sum_{\mbox{\scriptsize 履歴}}
\dot{\fat{\epsilon}}\super{p}
\end{displaymath} (9.43)

ということ9.23になり, 数値計算でしか塑性ひずみは定義できない。 したがって式(9.21)の代わりに

\begin{displaymath}
\fat{\epsilon}=\fat{\epsilon}\super{e}+\fat{\epsilon}\super{p}
\eqno{\mbox{【不適切な式】}}
\end{displaymath}

という式にするのは,最終状態だけでひずみが求められるという表現に なってしまって不適切であるし,近似の全ひずみ理論 と誤解される恐れがあるので注意が必要である。 せめて $\fat{\epsilon}\super{p}(\mbox{履歴依存})$とでも明記すべきだろう。

9.2.3.0.1 逆関係の標準的物理的な誘導:

さて,有限要素法等への 応用のことを考えると, 式(9.41)の逆関係を求めた方が便利かもしれない。 まず,式(9.41)の$i$$j$を一致させて1から3まで和をとる9.24

\begin{displaymath}
\sum_i \dot{\epsilon}_{ii}= \dfrac{1}{2\mu} \sum_i \dot{\sig...
...um_k \dot{\sigma}_{kk}
=\dfrac{1}{3K} \sum_k \dot{\sigma}_{kk}
\end{displaymath}

となるから,結局平均応力増分が

\begin{displaymath}
\sum_k \dot{\sigma}_{kk} = 3K \sum_k \dot{\epsilon}_{kk}
\eqno{(b)}
\end{displaymath}

となる。体積変化には塑性は関与していないから,これは弾性関係のみで 表される。 次に式(9.41)に$\sigma'_{ij}$を 乗じて$i$$j$を1から3まで和をとり,仕事増分を算定すると

\begin{displaymath}
\sum_i \sum_j \sigma'_{ij} \dot{\epsilon}_{ij} =
\dfrac{1}...
...{\sigma}^2}  
\sum_k \sum_l \sigma'_{kl}  \dot{\sigma}_{kl}
\end{displaymath}

となる。 右辺第2項に式(9.22a)の $\overline{\sigma}$の定義を考慮すると, 結局

\begin{displaymath}
\sum_i \sum_j \sigma'_{ij} \dot{\epsilon}_{ij} =
\dfrac{1}...
...+H}{2 \mu  H} \sum_i \sum_j \sigma'_{ij} \dot{\sigma}_{ij}
\end{displaymath}

となることから,逆関係として

\begin{displaymath}
\sum_i \sum_j \sigma'_{ij} \dot{\sigma}_{ij}=
\dfrac{2 \m...
...H} \sum_i \sum_j \sigma'_{ij} \dot{\epsilon}_{ij}
\eqno{(c)}
\end{displaymath}

を得る。式($b$) ($c$)を式(9.41)の 右辺に代入すれば,右辺第1項以外はすべてひずみ増分で表される。 よって,左辺にひずみ増分の項を集めて,左右を入れ替え, 両辺に$2 \mu$を乗じることによって

\begin{displaymath}
\dot{\sigma}_{ij}=2 \mu \dot{\epsilon}_{ij}
+ \left(K-\df...
..._{ij} \sigma'_{kl}}{\overline{\sigma}^2} \dot{\epsilon}_{kl}
\end{displaymath} (9.44)

を得る。式(3.43)のLaméの定数を用いると, 結局式(3.52)の等方弾性係数$\fat{C}$を用いて

\begin{displaymath}
\dot{\sigma}_{ij}=\sum_k\sum_l C_{ijkl} \dot{\epsilon}_{kl}...
..._{ij} \sigma'_{kl}}{\overline{\sigma}^2} \dot{\epsilon}_{kl}
\end{displaymath} (9.45)

という増分応力増分ひずみ関係 を得る。 ここで, $\dfrac{\mu H}{\mu+H}$が図-9.8$H'$, つまり弾性も含む見かけ上の硬化係数に相当する。 また式(9.41)の関係も, 式(3.54)の弾性コンプライアンスを用いて

\begin{displaymath}
\dot{\epsilon}_{ij}= \sum_k\sum_l D_{ijkl} \dot{\sigma}_{kl...
...ij} \sigma'_{kl}}{4 \overline{\sigma}^2} 
\dot{\sigma}_{kl}
\end{displaymath} (9.46)

と表すこともできる。

あるいは,弾塑性接線係数 および接線コンプライアンス

\begin{displaymath}
C\super{ep}_{ijkl} \equiv C_{ijkl}
- \chi   \dfrac{\mu^2}{...
...,\overline{\sigma}^2}
\index{=elastoplastic@$( )\super{ep}$}%
\end{displaymath} (9.47)

と定義すれば,増分構成方程式は

\begin{displaymath}
\dot{\sigma}_{ij} =
\sum_k\sum_l C\super{ep}_{ijkl} \dot{\...
...lon}_{ij} = \sum_k\sum_l D\super{ep}_{ijkl} \dot{\sigma}_{kl}
\end{displaymath} (9.48)

と表すことができる。ただし$\chi$は載荷・除荷を区別するスィッチで

\begin{displaymath}
\chi=\left\{
\begin{array}{ll}
0 & \mbox{もし  弾性・除荷..
...1 & \mbox{もし  載荷}
\end{array}\right.
\index{=chi@$\chi$}%
\end{displaymath} (9.49)

と定義した。再度しつこいようであるが,このように表現してしまうと, 弾塑性係数と弾性係数が同じように見えてしまうことから, 弾性と塑性の物理的な違いを忘れてしまう可能性があるので注意すること。

9.2.3.0.2 材料試験と硬化係数:

さて,硬化係数の$H$は材料特性を表すパラメータなので, 材料試験等で決定しなければならない。一番基本的な試験は1軸引張り試験だろう。 そこで式(9.41)は,1軸状態( $\sigma_{11}=\sigma_0$で 他の成分はすべて零。増分も同様。)では

\begin{displaymath}
\dot{\epsilon}_{11}=\dfrac{1}{E} \dot{\sigma}_0
+\dfrac{1}{3H} \dot{\sigma}_0=\dfrac{1}{E\sub{t}} \dot{\sigma}_0
\end{displaymath}

という関係になる。ここに$E$はYoung率であり,$E\sub{t}$は引張り試験の 応力ひずみ関係の接線係数である。この関係より

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{3H}=\dfrac{1}{E\sub{t}}-\dfrac{1}{E} \quad\to\quad
3H=\dfrac{E\sub{t}}{\left(1-\dfrac{E\sub{t}}{E}\right)}
\end{displaymath}

であることがわかる。 あるいは,応力と塑性伸びひずみ関係の接線係数が$3H$であることになる。 この`3'は, $\overline{\sigma}$ $\widetilde{\sigma}$およ び $\overline{\epsilon}\super{p}$ $\tilde{\epsilon}\super{p}$の 違いの$\sqrt{3}$から派生している。

一方,せん断試験が可能であれば, $\sigma_{12}=\tau_0$のみが 非零だとして同様の計算をすると

\begin{displaymath}
\dot{\gamma}_{12}=2\dot{\epsilon}_{12}=
\dfrac{1}{\mu} \do...
...au}_0+\dfrac{1}{H} \dot{\tau}_0=
\dfrac{1}{H'} \dot{\tau}_0
\end{displaymath}

となる。$H'$はせん断試験の応力と工学ひずみの関係の接線係数である。 これより

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{H}=\dfrac{1}{H'}-\dfrac{1}{\mu}
\end{displaymath}

となり, これは1次元モデルの場合の硬化係数の式(9.11b)と 同じ関係を示している。 試験で得る応答は一般には非線形性を有していて, それをよく「べき乗則」等で近似することがある。べき乗則の 例については節-9.4.3 (3)を 参照のこと。

9.2.3.0.3 総和規約:

ここまでの定式化で,例えば上の式(9.48)を見ても明らかなように, どの式にも,同じ添え字は二度までしか現れず,二度現れた添え字に ついては必ず,2次元なら1から2,あるいは3次元なら1から3まで 総和をとることになっている。 したがって,この式(9.48)を$\Sigma$の記号無しで

\begin{displaymath}
\dot{\sigma}_{ij} =
C\super{ep}_{ijkl} \dot{\epsilon}_{kl}...
...d
\dot{\epsilon}_{ij} = D\super{ep}_{ijkl} \dot{\sigma}_{kl}
\end{displaymath}

と書いた上で,「二度現れる添え字は総和をとる」という約束をしても 全く問題は無いだろう。この規則を総和規約 と呼び,この章では,以下,この規約9.25を用いることにする。 少し練習を兼ねて,次のような計算が成立することを考えて 欲しい。$\delta_{ij}$はKroneckerのデルタである。

\begin{displaymath}
\delta_{kk}=3, \quad \delta_{ij} \sigma_{jk}=\sigma_{ik},
...
...sigma_{jj}=\sigma_{kk}=
\sigma_{11}+ \sigma_{22}+ \sigma_{33}
\end{displaymath}

特に最後の例のように,二度現れる添え字はそのペアのままなら, いつでも他の文字に置き換えても全く問題は生じないこと等には, 早めに慣れて欲しい。

  1. 式(9.47)の接線係数から,例えば1軸応力状態での 見かけ上のPoisson比を定義し,非圧縮性 (式(3.49)の議論で示したように,非圧縮性が 成立する弾性体のPoisson比は$\slfrac12$である)について考察せよ。


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Iwakuma Tetsuo
Mon, 18 Feb 2013 12:49:55 +0900 : Stardate [-28]8120.79