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9.1 非可逆変形と1次元塑性モデル

9.1.1 非可逆変形と破壊


9.1.1.1 塑性と延性破壊

例えばまっすぐの針金等を力任せに曲げると, 大きく曲げ変形が生じたあとには元のまっすぐな状態には戻らなくなる。 さらに折れ曲がった部分は他の部分よりも硬くなっていて,特に その箇所を元のまっすぐの状態にするのは困難である。 また,一度曲げた部分を逆に曲げたりして,それを繰り返した変形を与え続けると, 曲がった部分の温度が若干上がり,最終的には破断することがある。 このような非可逆的特性を非弾性 と呼ぶが,特に,力を抜いたときの形と元の形の差である残留変形が時間と共には変化しない場合には, その変形量を塑性変形 と呼ぶ。 残留変形が生じるということは,曲げるために入力したエネルギの 一部が,形を元に戻す以外のエネルギ(熱)として散逸してしまったことを 意味しており,これが温度の上がる理由である。 ちなみに,残留変形が時間と共に変化する場合には,その特性を粘性 と呼ぶ。図-9.1参照。

図 9.1: 弾性と塑性・粘性の違いの概要:縦軸のスケールは気にしないこと
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(584,107)(24,-5)...
...tring)
\put(580,61){{\normalsize\rm C}}
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

図 9.2: 結晶構造の内部欠陥

ところで,鋼のような結晶金属なら原子が格子状に並んでいて その結合力はかなり大きいはずなので, いかに針金といえどもそんなに容易には非可逆変形が生じないと思うかもしれない。 しかし,実際には図-9.2のような 内部欠陥が結晶金属中は無数に存在する。 この図のSの2箇所では,ある結晶面(1階)からその上の結晶面(2面)へと らせん階段のようにつながっている。 したがってEの箇所では異なる結晶面である上下の面からそれぞれ, 図の左側の方にたどっていくと,Sの箇所で同じ結晶面に達することになる。 このSのような欠陥をらせん転位 と呼び,Eのような欠陥を刃状転位 と(AからEを眺めたのが左の丸の中)呼んでいる。 黒丸の格子点をつないだ面(1階)と網掛け丸の 格子点をつないだ面(2階)との隙間をつないだ線分を転位線 と呼ぶが,透過電子顕微鏡ではこれが黒い線分として観察できる。 そして面白いことに,力を加えるとこの転位線が移動するのである。 力を逆向きにすると逆方向に移動する。 しかしこの転位が界面や表面に達すると,そこの新しい界面・表面に なってしまい動けなくなる。 表面が作られるときにエネルギが放出されて熱が出る。 これが残留変形が生じる微視的な仕組であると考えればいい。

図 9.3: 3種類の破壊形態の微視的な違い

さて上述の針金の実験では,繰り返し何度も曲げないと破断までは 至らなかった。これは,延性や靭性と呼ばれる特性のために粘り強いのであるが, 破壊に関係した金属材料の重要な特性には次のようなものがある。

脆性:
普通のガラスのようにほとんど変形しないまま パリンと壊れる特性を脆性と呼ぶ。
靭性:
なかなか破壊せず粘り強く変形し続ける特性を靭性と呼んでいる。
延性:
例えば引張り試験の破断までの主に塑性変形が大きい性質を延性と呼ぶ。 この章の塑性論とは,この延性をモデル化するための数理科学である。
靭性と延性:
ただし,延性の高い材料が靭性も高いとは限らない。 というのも,靭性は例えば交番荷重に対する応力ひずみ曲線で囲まれる 面積に対応する巨視的な散逸エネルギや, 材料の内部欠陥周辺での微視的な破壊エネルギ的な抵抗の大きさを表すのに対し, 延性は1軸方向の単純な延び易さを示しているからだ。

このような特性に関連して,主に次のような三つの破壊形態がある。

脆性破壊:
変形がそれほど大きくならないうちに壊れることを脆性破壊と呼ぶ。 ちょうどガラスが割れるようなものだと 考えればいい。図-9.3の左上に描いたように, 何らかの原因によって材料中に亀裂ABが存在した場合, 外力の作用によってこれがすぐ右の図のようにACへと伸び, これが瞬間的に材料表面まで達すると破壊する。 太い線は多結晶金属中の単結晶の界面であるが, 亀裂が界面とは無関係に存在してそれに沿って破断するため, 脆性破壊した材料の破面は紙やすりくらいに「ザラザラ」しているのが普通だ。
延性破壊:
大きな塑性変形を伴いながら壊れることを延性破壊と呼ぶ。 前述の刃状転位を簡単に描いたのが図-9.3の 右上の二つの格子配置で,左図のような位置にある刃状転位は 何らかの力の作用で右図のように移動していく。 そして図-9.3の左下の図(a)のように, 単結晶粒中に9.1無数に存在した転位は自由に動くことができる。 そして外力レベルが上がるにつれて,中央の図(b)のように転位が界面に 集まってくる。外力の増加に伴って, それが右の図(c)のように転位は界面の新しい表面になり, 同時に大きく塑性変形をしながら剥離し(引きちぎられていき), 最終的にこの剥離部が材料表面に達すると破壊する。 大きく塑性変形した界面に沿って破断するため,延性破壊した材料の 破面は元の形(角度や面積)をほとんど留めず 凸凹で「ゴツゴツ」しているのが普通だ。
疲労破壊:
もう一つ,例えば鋼の場合には疲労破壊と呼ばれる破壊形態がある。 これは材料の微視的な内部欠陥周辺での微視的な脆性破壊が徐々に進展して起こる。 つまり図-9.3の左上のような状態にある材料が, 脆性破壊と同じように亀裂の進展を伴うのであるが,1回の 外力の作用によってはCが材料表面までは達することがなく, 徐々に伸びていった場合の破壊形態である。 亀裂が少しずつ伸びるので,疲労破壊した材料の破面は「縞々(シマシマ)」に なっており,貝殻模様 や波に洗われた砂浜の模様(ビーチマーク) が残るのが普通だ。

脆性破壊と疲労破壊は延性破壊とはメカニズムが異なっていることが 明らかであり,それを勉強するためには破壊力学を学ぶ必要があるが, 著者は苦手なのでこの文書には含まれていない。 なおこの章は主に,アメリカ合州国Illinois州Evanston, Northwestern大学Nemat-Nasser教授(1980年頃当時) の`Plasticity'の講義ノートを参考にした。 また,この章の後半からは,p.[*]で 規定する総和規約を用いて式を表現することに注意して欲しい。

図 9.4: 1軸引張り試験での変形履歴
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(199,153)(188,-5)
...
...,70.517)(246.191,69.5)
\outlinedshading
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

さて,車の車体等をプレスして製造する塑性加工をシミュレートするためや, 材料が実際に破断して構造の崩壊までを予測しなければならない 終局状態での設計に役立てるためには, 材料によってはひずみが数十%程度以上までに至ることがあるため, 大変形(有限変形)状態までを対象として取り扱わないといけない場合が多い。 しかし, そのような扱いについては章-12を参考にして欲しい。 この章では,その塑性変形を記述するモデルの考え方そのものを 理解して欲しいので, いわゆる微小変形の枠組で,上述のような塑性変形を伴う 材料特性の記述の仕方を説明する。

9.1.1.2 実験観察

さて,例えば鋼を例とすると, 最も単純な1軸引張り試験等で観察される事実には 次のようなものがある。

  1. 塑性変形が生じた状態で荷重を取り去ると,そこに至るまでに経験した 変形経路を元に戻ることはせず,図-9.4の太い矢印で 示したような別の変形経路をたどり,それはほぼ弾性挙動である。 つまり応力ひずみ関係には一対一関係が成立しない上に, 同じ応力状態で生じようとする(増分)変形が唯一ではない。
  2. 塑性変形を生じさせ続けると,弾性変形9.2とは異なり,非線形の応答を示す。
  3. ただし,鋼球を例えば日本海溝に沈めた場合, もちろん深海では大きな水圧のために体積が変化して縮んでいるものの, それを海面に戻すと元の径を持つ球に戻る(とは, 見てきたかのような嘘だが)。 つまり,等方的な外力載荷(静水圧状態あるいは等方応力状態)では 塑性変形はほとんど9.3生じない。
  4. 1方向に大きく塑性変形が生じてしまった材料を,続いてその 逆方向に変形させると,最初の載荷方向に塑性変形が発生し始めた 応力レベルよりも低い応力レベルで,塑性変形が生じる9.4ことがある。 これをBauschinger効果 と呼ぶ。ただし,この性質については,節-9.4.1で説明する 移動硬化則の節以外ではモデルには含めない。

これが数学的塑性論を構築するための基礎になり,鋼以外の材料のモデルの 基本でもある。

ちなみに図-9.4にある下の曲線は軟鋼の 典型的な応力ひずみ関係である。 面白いことに平らな部分,踊り場と呼ばれる部分があるが, ここで起こっていることが図-9.3の下の 図(a)から(b)への変化,つまり転位の移動と集積に対応している。 一方,踊り場が終わったあとの曲線は正の勾配を持って硬くなっていくが, これは,図-9.3の(b)に示したような 集積した界面等の転位が動き難くなることにその原因がある。 そのあと応力ひずみ関係はピークを迎え, このあたりで引張り試験片は細くなってくるが, このあたりで図-9.3の(c)のような 界面剥離等が生じて巨視的なすべり変形や微視空隙の生成が 顕著になっていると考えられている。

9.1.2 1次元の塑性モデル

9.1.2.1 基本的なモデル

ここではまず1次元の変形状態を例にして,基本的な塑性モデルと その記述の仕方を説明する。 前節の実験観察から判断して,次のように考えなければならない。

図 9.5: 交番載荷の変形履歴
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(242,223)(200,-5)
...
....906)(254.145,156.918)
\outlinedshading
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

この二つ目の項はわかり難いかもしれない。 例えば鋼の交番載荷試験等をして図-9.5のような 応力ひずみ関係が得られたとしよう。 試験Iは,まず引張ってA$\to$B$\to$C$\to$Dという履歴をたどったとする。 次の試験IIは,Aのあとに荷重を減らすのを少し遅らせてEへと至り, 試験Iの点Cと同じひずみレベル$\epsilon_1$に達したところで 荷重を反転してFに至ったとする。 さらに試験IIIではまず圧縮してG$\to$H$\to$Kという履歴をたどったとする。 このように, ある応力状態$\sigma_1$にある変形状態は,A, B, E, D, F, H, Kの7種類も存在し, 履歴依存の変形が生じていることが明らかだ。 当然応力ひずみ関係には一対一関係も無い。 また上述ように,増分同士(微分同士)の関係が表現できたとしても, それを積分することはできない

\begin{displaymath}
\Delta \epsilon = F(\sigma, \epsilon) \Delta \sigma
\quad\...
...m\raisebox{-.5ex}{\mbox{\Large ×}} \quad
G(\sigma,\epsilon)=0
\end{displaymath}

ということも理解できると思う。

以上を踏まえたモデルをいくつか作っていくが, せん断が塑性に密接に関係付けられている ことから考えて,土質試験の「せん断箱」の試験のような 単純なせん断試験を対象とするのが望ましいと思うかもしれない。 しかし,1軸方向の 引張り試験であっても,引張り軸から45度回転させた座標系で見れば, これも部分的にはせん断試験をしていることに なっている(図-9.6のインセット参照)ので, 以下では鋼の材料試験の代表である引張り試験を せん断試験に読み替えて説明しよう。

9.1.2.2 剛・完全塑性体

図 9.6: 剛・完全塑性体
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(160,157)(180,-5)
...
...ing)
\put(180,109.4){{$\tau\subsc{y}$}}
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

終局状態を主に対象とするのであれば, 総変形量に対して弾性変形は非常に小さいと考えていいから, 最初は図-9.6のように近似して, 弾性変形が存在しない材料モデルを考えてみよう。 またこの材料は $\left\vert\tau\subsc{y}\right\vert$以上の抵抗力は持たないと近似する。 このような物体を剛・完全塑性体 と呼んでいる。 これは構造力学で構造の終局状態を簡便にモデル化する場合に よく用いられるモデルである。 また,荷重を取り去ろうとする状態を除荷 状態と呼ぶが,実験観察に基づいて, 除荷経路は弾性経路と同じ特性を持つものとする。

まず初期状態から荷重をかけた場合,図の縦軸の応力レベル$\tau\subsc{y}$に 達するまではひずみ$\gamma$は生じない。 この応力$\tau\subsc{y}$降伏応力 と呼ぶ。つまり $\tau<\tau\subsc{y}$では弾性状態なので$\gamma=0$である。 簡単のために,降伏は圧縮でも引張りでも同じ応力レベルで生じるものとする。 荷重が大きくなり降伏応力に達したあと,あるひずみが生じた状態で 除荷をすると,そこでも弾性変形しか生じないので,この剛・完全塑性体の 場合にはひずみに変化が生じない。 除荷をするということは, $\tau=\tau\subsc{y}$の応力状態で, 応力レベルを下げる変化を与えることになっているので, 応力の正負両方で使える表現として, 除荷を $\tau\cdot\Delta\tau<0$となる瞬間として記述するのが便利であろう。 ここに$\Delta$は,ある状態からの変化量(増分)を表している。 このとき,上述のように $\Delta\gamma=0$であるから, 初期状態から降伏応力に達するまでの初期降伏前の変形特性も併せて

\begin{displaymath}
\Delta\gamma=0 \quad \mbox{もし} \quad \left\{
\begin{array...
...\cdot\Delta\tau<0 & \mbox{(除荷の瞬間)}
\end{array} \right.
\end{displaymath} (9.1)

と記述することができる。

これに対して材料が降伏する瞬間,あるいは降伏した状態を 保持して,塑性変形が生じ続ける場合の記述を検討しよう。 このような変化状態を除荷に対応させて載荷 状態と呼ぶ。除荷と同様の記述を用いることにすると, 載荷は $\tau\cdot\Delta\tau=0$とすればいい。 本当は $\tau\cdot\Delta\tau\ge0$としたいところだが, 完全塑性では$\tau\subsc{y}$が一定なので,$\Delta\tau$は 零以外にはなれないからである。したがって,載荷は少なくとも

\begin{displaymath}
\Delta\gamma  \mbox{の符号} = \tau  \mbox{の符号}
\quad \m...
...\mbox{かつ} \quad
\tau\cdot\Delta\tau=0 \quad \mbox{(載荷)}
\end{displaymath} (9.2)

と記述できる。 ただし,$\Delta\gamma$がいくつになるのか決める規則はまだ導入できていない。

9.1.2.3 弾・完全塑性体

これに対し,図-9.7のように, 剛・完全塑性体に弾性を考慮したものを弾・完全塑性体 と呼ぶ。この場合は

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
\Delta\gamma=\dfrac{\Delta\tau}{\mu...
...かつ} \quad
\tau\cdot\Delta\tau=0 \bigr\}
\end{array}\right.
\end{displaymath} (9.3)

と記述できるだろう。ここに$\mu$はせん断弾性係数9.5である。 実はもう少し詳細な記述が可能であるが,それは次節の 弾・塑性硬化体の特別な場合($H'\equiv 0$)になるので,ここでは省略する。

9.1.2.4 弾・塑性硬化体

図 9.7: 弾・完全塑性体
図 9.8: 弾・塑性硬化体
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(148,133)(180,-5)
...
... ...

もっと一般的には,降伏後の抵抗力は一定とは限らず,変形履歴に伴って 大きくなるのが普通である。 降伏後の抵抗力が変形に伴って大きくなることを硬化 と呼ぶ。また,弾・完全塑性体もそうだが,弾性を含む弾塑性材料の場合には, 増分ひずみに弾性成分と塑性成分があるとみなし

\begin{displaymath}
\Delta\gamma=\Delta\gamma\super{e}+\Delta\gamma\super{p}
\end{displaymath} (9.4)

の和が成立9.6する。上添え字の`e'と`p'がそれぞれ弾性成分と 塑性成分を表している。弾性はHookeの法則に従うものとすれば

\begin{displaymath}
\Delta\gamma\super{e}=\dfrac{\Delta\tau}{\mu}
\end{displaymath} (9.5)

が成立する。 載荷の場合の塑性成分は,完全塑性体と同様 $\bigl\{ \Delta\gamma\super{p} 
\mbox{の符号} = \tau  \mbox{の符号}\bigr\}$とすればいいので

\begin{displaymath}
\Delta\gamma\super{p}=\lambda \dfrac{\tau}{\left\vert\tau\r...
...\quad
\Delta\gamma\super{p}=\lambda \tau, \qquad \lambda> 0
\end{displaymath} (9.6)

と置くことにする。この関係を流れ則 と呼んでいる。この$\lambda$は材料パラメータ9.7ではなく, 応力増分$\Delta\tau$にも関係した量, 例えば $\left(\lambda=\Lambda(\tau,\mbox{履歴})\cdot\Delta\tau\right)$であり, 弾性・除荷・載荷に対して

$\displaystyle \lambda=0$ $\textstyle \quad$ $\displaystyle \mbox{もし} \quad
\bigl\{ \left\vert\tau\right\vert<\tau\subsc{y}...
...(\overline\gamma\super{p})
\quad\mbox{かつ}\quad \tau\cdot\Delta\tau< 0 \bigr\}$  
$\displaystyle \lambda>0$ $\textstyle \quad$ $\displaystyle \mbox{もし} \quad
\bigl\{ \left\vert\tau\right\vert=\tau\subsc{y}(\overline\gamma\super{p})
\quad\mbox{かつ}\quad \tau\cdot\Delta\tau\geq 0 \bigr\}$ (9.7)

を満足するものである。ただし,降伏後の一定ではない抵抗力を モデル化するために,降伏応力$\tau\subsc{y}$は一定ではなく, 履歴に依存した関数になるとすればいいので, 例えばここでは $\tau\subsc{y}(\overline\gamma\super{p})$と 記述した。 $\overline\gamma\super{p}$ $\Delta\gamma\super{p}$の 何等かの積分量である。 一般に式(9.6)は $\Delta\gamma\super{p}=
\left(\Lambda(\tau)\cdot\Delta\tau\right)\cdot\tau$と書くことができ, これを積分(できれば)して

\begin{displaymath}
\overline\gamma\super{p}=\Xi(\tau,\mbox{履歴}), \quad \mbox{...
...i(\tau,\mbox{履歴})}{\tau}= \Lambda(\tau,\mbox{履歴})\cdot\tau
\end{displaymath}

のような高次の非線形関係になるのが一般的ではあるが, この節では簡単のために図-9.8のような 線形関係があるものとする。 また,降伏応力$\tau\subsc{y}$が一定ではないことから, 載荷の条件を $\tau\cdot\Delta\tau=0$から $\tau\cdot\Delta\tau\geq 0$に 拡張してある。

図 9.9: 全ひずみ理論近似を併用した場合の硬化材の降伏応力の例
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(153,153)(184,-5)
...
...{1}{H}=
\dfrac{1}{H'}-\dfrac{1}{\mu}$}}
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

9.1.2.4.1 全ひずみ理論による近似:

一般には式(9.4)にあるように,増分ひずみの弾性成分と 塑性成分の和が総増分ひずみ量になるが, ここではもう少し物理的な理解を深めるために,いわゆる全ひずみ理論 で仮定されるように,総ひずみ量同士にも同様の加算則が成立する場合を 考えてみよう。 これは微小変形の範囲で,除荷が生じない 線形硬化の1次元の単調載荷状態に限定すれば,あまり問題は無いだろう。 つまり

\begin{displaymath}
\gamma=\gamma\super{e}+\gamma\super{p}
\end{displaymath} (9.8)

も成立するものとし,弾性則も

\begin{displaymath}
\gamma\super{e}=\dfrac{\tau}{\mu}
\end{displaymath} (9.9)

が成立するものとする。図-9.8から, 降伏状態に常にある正の応力は,ひずみと

\begin{displaymath}
\tau=\tau_0+H'\left(\gamma-\dfrac{\tau_0}{\mu}\right)
\end{displaymath} (9.10)

の関係にあり,これに式(9.8) (9.9)を代入すると

\begin{displaymath}
\tau=\tau_0+\dfrac{H'}{\mu}\tau+H' \gamma\super{p}-\dfrac{H'}{\mu}\tau_0
\end{displaymath}

となるから,整理すると

\begin{displaymath}
\tau=\tau_0+\left(\dfrac{1}{H'}-\dfrac{1}{\mu}\right)^{-1}\gamma\super{p}
\end{displaymath}

という関係になる。この$\tau$は降伏状態を常に満足していることから, 右辺が $\tau\subsc{y}(\overline\gamma\super{p})$で あり, $\Delta\gamma\super{p}$が積分できるとしたので, さらにこれは $\tau\subsc{y}(\gamma\super{p})$で あることがわかる。つまり, 線形硬化を伴う降伏応力は,単純には

\begin{twoeqns}
\EQab \tau\subsc{y}(\gamma\super{p})=
\tau_0+H \gamma\super{p}...
...\gamma\super{p}} =
\left(\dfrac{1}{H'}-\dfrac{1}{\mu}\right)^{-1}
\end{twoeqns}

(9.11)



でモデル化できる。$H$はその硬化の変化率を与えるので,硬化係数 と呼ばれる材料パラメータである。図-9.9に その様子を描いた。このことから, 降伏状態を規定する降伏条件

\begin{displaymath}
f(\tau)\equiv \left\vert\tau\right\vert-\left(\tau_0+H \gamma\super{p}\right)=0
\end{displaymath} (9.12)

と与えればいいことがわかる。$f(\tau)$降伏関数 と呼ぶ。 これに対し$H'$は,応力ひずみ関係上の弾性も含んだ見かけ上の 硬化係数であり,実験で測定できるのは$H'$の方である。

このような仮定が成立する場合の$\lambda$の具体的な表現を求めておこう。 簡単のために$\tau>0$で考える。降伏して常に載荷状態にあれば, 常に塑性ひずみ増分が非零で生じ続ける。このとき,式(9.12)の 降伏条件は常に満足され続けなければならない。したがって その変化は零であり続ける。式(9.12)の増分をとると,それは

\begin{displaymath}
\Delta f=\Delta\tau-H  \Delta\gamma\super{p}=0
\end{displaymath}

が成立し続ける。これを整合条件 と呼ぶ。この最後の項に式(9.6)を代入することによって

\begin{displaymath}
\lambda=\dfrac{\Delta\tau}{H \tau}=\dfrac{\Delta\tau\cdot\t...
...lta\tau
=\dfrac{\tau\cdot\tau}{H \tau\subsc{y}^2} \Delta\tau
\end{displaymath} (9.13)

と求められる。載荷状態では $\tau\cdot\Delta\tau>0$であるし,$H'$は一般に 弾性剛性$\mu$よりは小さいことから$H>0$となるので,$\lambda>0$が成立する。 式(9.13)の矢印の右の最初の表現には,分子・分母に$\tau^2$が あって冗長な表現になっているが, 後述の3次元での表現との比較を容易にするために敢えて用いた表現である。 最後の表現では,分母の$\tau^2$が降伏条件式(9.12)を 満足しているので, $\tau\subsc{y}^2$で置き換えてある。 なおここでは,1次元モデルである上に全ひずみ理論を用いたため, 式(9.6)の基本的な仮定 『塑性ひずみ増分は応力と同じ向きにある』という根本原理とは異なり, 塑性ひずみ増分が応力増分にそのまま比例した表現式(9.13)に なってしまっている(物理的には異なる表現に見える)ことには 十分に注意して欲しい。


9.1.3 摩擦とすべり--状態と発展則

図 3.14: 摩擦とすべり

このように, 塑性は弾性とは大きく異なり,1)状態を定義する関係式( $\left\vert\tau\right\vert\leq
\tau\subsc{y}$のどの状態か)と,2)変形の変化則を定義する 関係式($\Delta\gamma$はどのような規則を満足するか)の, 二つの条件を規定する必要がある。 また,状態が載荷なのか除荷なのかについても, この二つの条件と適合するように定義する必要がある。 以下, まず2種類の規則が必要なことについて,摩擦とすべりを例にして 説明しよう。図-9.10に示したのは, ある斜めの力$F$で消しゴムを押している状況である。 ゴムの弾性のため,消しゴムは若干歪んでいる。 そして,この床と消しゴムの間の静止摩擦係数$\mu_s$とすると,消しゴムがすべり始める可能性は,条件式

\begin{displaymath}
f\equiv S-\mu_s N=F \left(\cos\theta-\mu_s \sin\theta\right)=0
\end{displaymath} (9.14)

で与えられるが,ここでは実際にはすべらないものと考えて欲しい。

この状態で,例えば $S\to S+\Delta S$, $\Delta S>0$とした場合には,最大摩擦力 を上回るせん断外力が作用したことになり,上式は

\begin{displaymath}
\Delta f= \left\{S+\Delta S-\mu_s N\right\}-
\left\{S-\mu_s N\right\}=\Delta S>0
\end{displaymath}

のような変化が生じ,$\Delta S$の方向である床方向, つまり$S$の方向にすべり始める。 では次に $N\to N-\Delta N$, $\Delta N>0$としてみよう。 つまり力を抜くのであるが,この場合には弾性との差がもっと明確で

\begin{displaymath}
\Delta f= \left\{S-\mu_s \left(N-\Delta N\right)\right\}-
\left\{S-\mu_s N\right\}=\mu_s\Delta N>0
\end{displaymath}

となるので,このときもすべり始めるが,すべる方向は加えた変動$\Delta N$とは 関係がなく,それと直交する床方向 つまり$S$の方向であることに 注意して欲しい。 では $F\to F+\Delta F$, $\Delta F>0$の場合はどうだろう。 このときは

\begin{displaymath}
\Delta f= \left(F+\Delta F\right) \left(\cos\theta-\mu_s \...
...\right)=
\Delta F \left(\cos\theta-\mu_s \sin\theta\right)=0
\end{displaymath}

のように,すべり始める可能性の条件を満足したままなので, ここではすべらないことになる。 最後に力の向きを変えて $\theta\to\theta-\Delta\theta$と した場合には, $0<\Delta\theta\ll 1$, $0<\theta<\slfrac{\pi}{2}$ならば

\begin{displaymath}
\Delta f=F \Delta\theta \left(\sin\theta+\mu_s \cos\theta\right)>0
\end{displaymath}

となり,このときも$S$の方向にすべり始めることになる。

このように,状態を規定する関数$f$が負であれば消しゴムは 弾性変形するだけであり,関数$f$が零になったときに,非可逆的な運動が 生じる「可能性」が発生する。そして,その関数が増えようとしたときに, 実際にすべり運動が生じるのである。 このようなすべり始める条件が重要だが,これが上述の1)の関係式である。 一方,その運動の向きは, 外力変動や作用の向きの変動とは無関係に,常に床に沿った方向, 言い換えればせん断力$S$の方向

\begin{displaymath}
\Delta\left(\mbox{塑性的なすべり変形}\right)\equiv\Delta\gam...
...ad
\lambda=\lambda(F,S,\theta,\Delta F,\Delta S,\Delta\theta)
\end{displaymath} (9.15)

のように生じることになる。 上式の $\Delta\left(\mbox{塑性的なすべり変形}\right)$の 累積が図-9.10 $\gamma\super{p}$である。 そして,そのすべり運動は力を除いても元には戻らないから, 非可逆的な運動である。 もちろん逆向きに力を加えれば元の方向に戻るが, 床との摩擦で熱となって逃げたエネルギは元の材料に戻ることはない。 この $\Delta\gamma\super{p}$の条件が上述の2)の関係式である。 塑性変形は,この摩擦抵抗とすべりの関係によく似た現象である。 ここの$f$が状態を定義する関数であり,$f=0$が 塑性状態(後述の降伏条件)を表す関係式であり, その変化$\Delta f$に関する法則が 塑性変形の変化則(後述の発展則)を定義する関係式になる。

さて,この増分を規定する条件について, 弾性の場合 $\left(f<0\right)$と比べてみよう。 弾性の場合は,例えば$N$を増やす $\left(\Delta f<0\right)$と, 消しゴムは鉛直方向にさらに縮もうとするだろう。 また摩擦抵抗し続けている状態 $\left(f<0\right)$$S$を増やすと, 消しゴムは歪もうとするだろう。つまり, 弾性状態 $\left(f<0\right)$あるいは 非可逆運動が生じない場合 $\left(\Delta f<0\right)$には弾性変化しか生じず, しかもその変形は,外力変動や作用の向きの変動に直接

\begin{displaymath}
\Delta\left(\mbox{弾性的な消しゴムの高さの縮み}\right)=
\df...
...x{弾性的な消しゴムのせん断歪み}\right)=
\dfrac{\Delta S}{\mu}
\end{displaymath}

のように関係するのである。ただし$E$は一種のYoung率である。 しかも,弾性の場合には力を除けば元に戻る。 この弾性の関係式の左辺・右辺の$\Delta$の付き方が 上のすべり変形の場合と異なることに気付いて欲しい。

ところで,図-9.10のように $\gamma\super{p}$が 生じたあと力を除くと,そのままの状態で止まる。 ここでさらに力を同様に加えていくと,やはり 式(9.14)が次に成立したあとに, またすべり始めるだろう。 つまり,非可逆運動の開始は「力」で与えた条件で 決められていることには注意しよう。 もちろん, 形式的に式(9.14)を何らかの弾性係数$\mu$で割ると

\begin{displaymath}
\overline{f}\equiv \gamma-\mu_s \varepsilon=0, \quad
\gamma\equiv \dfrac{S}{\mu}, \quad \varepsilon\equiv\dfrac{N}{\mu}
\end{displaymath} (9.16)

のように「ひずみ」で表すことも可能である。しかし, 上述のような力を除いて再載荷する状況を念頭に置けば, 『この$\gamma$に塑性的なひずみの累積成分 $\gamma\super{p}$も 含めた場合に, 非可逆運動の開始条件を「ひずみ」で表すことはできない』ということが 理解できると思う。

9.1.4 弾・完全塑性材料でできた構造要素の例

9.1.4.1 トラス部材

図 9.11: 3本トラスの弾塑性挙動
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.01mm
\begin{picture}(6705,6425)(1500,-...
...ct  ...

1次元応力状態の簡単な応用例は構造要素である。 特に弾・完全塑性体の場合については 文献[79]に代表的な例があるので, そこからまず柱あるいはトラス部材を対象として 結果のみを示しておこう。 ただし,トラスや梁の場合にはせん断応力ではなく直応力の1次元応力状態に あるため,前節までの議論をすべて直応力で置き換えた上で, 全ひずみ理論つまり増分は用いない表現で表しておこう。 つまり,弾性はYoung率を通して1次元の応力$\sigma$とひずみ$\epsilon$が 線形の $\sigma=E \epsilon$で表現されているものとし,$\tau_0$に 相当する初期降伏応力を $\sigma\subsc{y}$とし,そのときの 降伏ひずみを $\epsilon\subsc{y}\equiv\dfrac{\sigma\subsc{y}}{E}$とする。

図-9.11に示した不静定トラスの場合

つり合い式:
$N_1+2 N_2 \cos\alpha=P$
変形の適合条件:
$
\delta=\dfrac{\delta_2}{\cos\alpha}, \qquad$ ただし,$\delta_2$は斜材の伸び
構成則:
弾性状態では, $N_1=EA \dfrac{\delta}{\ell}$, $N_2=EA \dfrac{\delta_2}{\slfrac{\ell}{\cos\alpha}}$, 降伏後は, $N_1=\sigma\subsc{y} A$, $N_2=\sigma\subsc{y} A$

である。ここに$A$は断面積で3本とも同じとした。2本とも 弾性状態であれば

\begin{displaymath}
\delta=\dfrac{P \ell}{EA}  \dfrac{1}{1+2 \cos^3\alpha}
\end{displaymath}

であるから

\begin{displaymath}
N_1=\dfrac{P}{1+2 \cos^3\alpha} >
N_2=\dfrac{P \cos^2\alpha}{1+2 \cos^3\alpha}
\end{displaymath}

となるため,鉛直材が先に降伏することがわかる。

鉛直材が降伏するのは $\delta=\dfrac{\ell \sigma\subsc{y}}{E}$のときで, その後は

\begin{displaymath}
\delta=\dfrac{\ell}{2 EA \cos^3\alpha} \left(P-\sigma\subsc{y} A\right)
\end{displaymath}

という関係が成り立つ。 その後 $\delta=\dfrac{\ell \sigma\subsc{y}}{E \cos^2\alpha}$で斜材も 降伏し,そのあと$\delta$は不定となる。 この履歴を示したのが図-9.11である。 ただし

\begin{displaymath}
\overline{P}\equiv \dfrac{P}{A \sigma\subsc{y}}
= \dfrac{P}...
...ll \sigma\subsc{y}}
= \dfrac{\delta}{\ell \epsilon\subsc{y}}
\end{displaymath}

と定義した。 $P\subsc{y}\equiv A \sigma\subsc{y}$は初期降伏軸力である。 この結論で重要なことは,最終的な荷重である終局荷重$P\sub{p}$ $P\subsc{y}
\left(1+2 \cos\alpha\right)$となり, 不静定構造であっても弾性係数に依存しないということである。 つまり,剛塑性体としてこの終局荷重を求めることができる可能性を, この簡単な解析例は示している。 これが,節-9.5で示す 塑性解析や極限解析に通じていると考えて欲しい。 設計においては便利で有用な情報である。

9.1.4.2 曲げ部材--モーメント曲率関係

図 9.12: 弾塑性状態の曲げ応力分布
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(258,119)(100,-5)
...
...308,1){{\normalsize\rm (c) $M\sub{p}$}}
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

次に純曲げを受けている梁部材を対象とする。 梁の場合は断面内で直応力は三角形分布をしているため, 矩形断面を例とした場合の右図-9.12のような 三つの状態が考えられる。 左端の(a)に至るまでが弾性状態であり,(b)の状態では 中立軸から$z\subsc{y}$離れた点までが弾性でその外側が降伏している。 これが最終的には(c)の極限状態に至り,これ以上の外力に 抵抗できないことから,これは終局状態である。 このとき曲げモーメント$M$と曲率$\phi$の関係を調べてみよう。 弾性状態では

\begin{displaymath}
M=EI \phi, \quad \sigma_e=\dfrac{M}{W_e}, \quad
W_e\equiv \dfrac{I}{\slfrac{h}{2}}
\end{displaymath}

という関係になる。ここに$\sigma_e$は最外縁応力の大きさであり,$W_e$は 断面係数である。上図の(a)の状態は,$\sigma_e$が降伏応力に 達したときに相当するため, このときの曲げモーメントを$M\subsc{y}$降伏モーメント と呼ばれる)とすると

\begin{displaymath}
M\subsc{y}\equiv W_e \sigma\subsc{y}=EI \phi\subsc{y}
=\d...
...bsc{y}, \quad
\phi\subsc{y}\equiv\dfrac{2\sigma\subsc{y}}{Eh}
\end{displaymath} (9.17)

になる。ここに$\phi\subsc{y}$は初期降伏時の曲率である。 さらに荷重が増えて弾塑性状態(図の(b))になると

\begin{displaymath}
M=M\subsc{y} \left\{
\dfrac32-\dfrac12 \left(\dfrac{\phi\s...
...subsc{y}}{E \phi}
=\dfrac{h}{2} \dfrac{\phi\subsc{y}}{\phi}
\end{displaymath}

が成立する。さらに曲率が無限大になる$\phi\to\infty$で上図の(c)の極限状態

\begin{displaymath}
M\to M\sub{p}=\dfrac{bh^2}{4} \sigma\subsc{y}=\dfrac32 M\subsc{y}
\end{displaymath} (9.18)

に至る。 この$M\sub{p}$全塑性モーメント と呼ばれるが,これも弾性とは無関係である。

9.1.4.3 両端単純支持梁の曲げ

前節の結果を利用して図-9.13のような 両端単純支持梁の3点曲げを解析しておこう。 中央断面が最初に降伏することは明らかであり, その後,この図のように中央付近の$a$の領域で断面の一部が降伏する。 左端から$x$軸をとると,$P>P\subsc{y}$の とき $\dfrac{\ell-a}{2}<x<\dfrac{\ell}{2}$の範囲で弾性部分の大きさは

\begin{displaymath}
z\subsc{y}=h \sqrt{\dfrac34-\dfrac{P}{P\subsc{y}}\dfrac{x}{\ell}},
\quad P\subsc{y}\equiv\dfrac{4 M\subsc{y}}{\ell}
\end{displaymath} (9.19)

であり,中央のたわみ $w(\slfrac{\ell}{2})$

\begin{displaymath}
\overline{w}=\dfrac{1}{\overline{P}^2} \left\{
5-\left(\overline{P}+3\right) \sqrt{3-2 \overline{P}}
\right\}
\end{displaymath}

と求められる。ここに$P\subsc{y}$は中央が初期降伏するときの外力であり

\begin{displaymath}
\overline{w}\equiv\dfrac{w(\slfrac{\ell}{2})}{\delta\subsc{y...
...\ell^2}{12 EI}, \quad
\overline{P}\equiv\dfrac{P}{P\subsc{y}}
\end{displaymath}

と定義した。 $\delta\subsc{y}$は中央断面が初期降伏するときの 中央のたわみである。上式の平方根の中から明らかなように

\begin{displaymath}
P\leq P\sub{p}\equiv\dfrac32 P\subsc{y}=\dfrac{4 M\sub{p}}{\ell}
\end{displaymath} (9.20)

までしか解は存在せず,$P=P\sub{p}$に 至ったときに $z_0\equiv z\subsc{y}(\slfrac{\ell}{2})\to 0$, つまりスパン中央で全断面降伏が生じてしまい,そこで梁が 折れ曲がり,つまり曲率が無限大になり,それ以上の荷重には 抵抗できなくなる。図-9.14にその弾塑性挙動をまとめた。

図 9.13: 両端単純支持梁の3点曲げ
図 9.14: 両端単純支持梁のの弾塑性挙動
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(244,291)(96,-5)...
...1,Legend(Title)
%,-1,Graphics End
%E,0,
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

  1. この節のトラスと梁の結果を求め,図-9.11と図- 9.14を確認せよ。


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Iwakuma Tetsuo
Mon, 18 Feb 2013 12:49:55 +0900 : Stardate [-28]8120.79