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3.2 内力と局所的なつり合い式

3.2.1 変形できる物体の抵抗とは

図 3.8: 物体の抵抗を力の次元で考えた内力という概念

章-2ではトラスと梁を例にして, 内力(抵抗力)を断面力として導入したが, ここではその抵抗力をもっと材料の変形と関係付けて,根源的な ところから定義し直そう。 外力に対し変形して抵抗する物体は,前節のひずみを 物体内部に発生させて抵抗しようとする。 例えば手が鉛筆を握る場合,筋肉は脳からの信号を 電気的化学的に処理して必要な部分だけを「収縮」させる。 それによって指に挟んだ鉛筆を落とさないだけの「力」を 鉛筆に与えている。 確かに「原子間力」までたどれば,何らかの場と それに対する内部の力が発生して抵抗していることは理解できるだろうが, 現象のみを眺めると, この筋肉の収縮に相当する「変形」が「外力」に直接抵抗 していることになる。 しかし「変形」は無次元量であるのに対し, 「外力」は力やモーメントの次元を持つ。 したがって,このようにお互いの次元が異なるもの同士が 作用反作用し合って抵抗しているように考えるのは思考上の困難を伴う だろう。そのため章-2では,軸力と曲げモーメント・ せん断力といった断面力を導入して外力に抵抗させた。 ここでは前節の変形と関係付けた連続体の内力を定義する。 そこで図-3.8のように, 力(あるいは偶力や圧力)の次元を持った「内力 という抵抗力(原子間力の平均値のようなもの)を新しく定義し

  1. 「外力」が作用すると,内部に「内力」による抵抗力が 発生して,つり合って静止する。
  2. その「内力」の生じる本来の原因は「変形」であるから, 物体の抵抗力は変形と直接関係がある。
  3. 「内力」と「変形」の関係は,物体を構成している材料そのものの 特性である。この2.と3.については次の節で具体的に説明する。

と考えた方が扱い易いだろう。 この節ではまず連続体に生じる内力, つまり物体の抵抗力を一般的に定義しよう。章-2で は主にトラス部材の応力(抵抗力)を,仮想的に(頭の中で)部材を 切断することによって可視化(外力と同じように)して考えたから, それほど抵抗なくその物理的な意味が想像・理解できたと思う。 ここで扱う連続体の中の応力は,初学者には難しいものの代表である。 少し我慢してじっくり取り組んで勉強して欲しい。 難しくなったときは,トラスの軸力のことを思い出せば, 少しは理解が進むかもしれない。

3.2.2 表面力ベクトルと応力テンソル

物体内部の抵抗力を具現化するために,トラス部材を途中で切断したのと 同様に,まずは物体を真っ二つにしてみよう。図-3.9の ように任意の法線方向$\fat{n}$を持つ内部表面をそのような切断によって 作ったとしよう。 その内部表面の面積が$A$で,そこに抵抗するために 発生しているであろう単位面積当たりの抵抗力ベクトルを $\fat{T}\sub{\bf n}$と すると,外力とのつり合いは右側の物体$V_2$に対しては

\begin{displaymath}
\fat{T}\sub{\bf n} A=\int_{S_2} \fat{F}\dint S+
\int_{V_2}\fat{X}\dint V
\end{displaymath}

となるはずだ。$\fat{F}$は物体の本当の表面に作用した単位表面積当たりの 外力であり,$\fat{X}$は物体内部に作用する単位体積当たりの外力である。 この抵抗力 $\fat{T}\sub{\bf n}$は章-2で 導入した軸力等の断面力に相当する。 ただし,ここでは次元は単位面積当たりの力と考えてみたものだ。 ここの「表面」というものが,物体の本当の表面ではなく, 仮想的に(頭の中で)物体を部分的に切断して現れた表面を指すことには 十分注意する必要がある。

図 3.9: 内部表面と表面力ベクトル
図 3.10: 内部表面上の表面力と応力テンソル
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(218,163)(212,-5)
...
...ng)
\put(156,78){{\xpt\rm$\sigma_{11}$}}
%
\end{picture}\end{center}\end{figure}

上では章-2の断面力を 一般化するために物体を二分する大きな面を考えたが, 連続体中の実際の内力は物体内の場所$\fat{x}$の関数になるため, 物体内のある局所的な点近傍において微分面積$\dint A$を考える必要がある。 そこで,図-3.9の切断面上の二箇所と 右部分$V_2$の中に三箇所例示したように,ある点近傍の 内部微分表面要素$\dint A$に生じた局所的な内力 $\fat{t}\sub{\bf n}(\fat{x})$に 着目してみよう。この内力 $\fat{t}\sub{\bf n}$表面力 と呼ばれる。その力ベクトルを表面力ベクトル 3.5と呼ぶこともある。 次元は圧力と同じで単位面積当たりの力である。 上で導入した断面力に相当する内力 $\fat{T}\sub{\bf n}$は, 真っ二つにした断面$A$の平均的な表面力

\begin{displaymath}
\fat{T}\sub{\bf n}=\dfrac{1}{A} \int_A \fat{t}\sub{\bf n}\dint A
\end{displaymath}

である。

このように,ある点で定義した表面力はベクトルなので もちろん三つの座標成分を持つはずだが, その同じ点を含む内部表面の向き$\fat{n}$が変わると,その成分の値は 違ってくるだろう。つまり,表面力には, 内部表面の向きの情報も含めて表現しなければならない。 そこで図-3.10には 簡単のために2次元での状況を示した。 この図の$\dint A$は物体内部の微分面積要素である。 その単位法線ベクトルが$\fat{n}$である物体内部の 任意の位置$\fat{x}$に定義した微分表面要素に 表面力 $\fat{t}\sub{\bf n}(\fat{x})$が発生している状況に対し, 図示したような $\sigma_{ij}(\fat{x})$で表示したその座標軸方向成分の 単位面積当たりの力成分を定義する。いずれの力も単位面積当たりの力で あることに注意すると,それぞれの座標軸方向の力のつり合いが

\begin{displaymath}
\dint A(t\sub{n})_1=n_1\dint A \sigma_{11}+n_2\dint A \sig...
... A(t\sub{n})_2=n_1\dint A \sigma_{12}+n_2\dint A \sigma_{22}
\end{displaymath}

となるから,結局,表面力ベクトルの各成分がそれぞれ面の方向に 依存した三つの成分$\sigma_{ji}$を持つことになり

\begin{displaymath}
(t\sub{n})_1=n_1 \sigma_{11}+n_2 \sigma_{21}, \quad
(t\sub{n})_2=n_1 \sigma_{12}+n_2 \sigma_{22}
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
(t\sub{n})_i=\sum_{j=1}^2 n_j \sigma_{ji} \quad (i=1,2)
\end{displaymath} (3.18)

$\sigma_{ij}$を定義することにしよう。この$\fat{\sigma}$応力 テンソルと呼び,上のそれぞれの成分を応力テンソル成分と呼ぶ。3次元の場合には

\begin{displaymath}
(t\sub{n})_i = \sum_{j=1}^{3} n_j \sigma_{ji} \quad (i=1,2,3)
\end{displaymath} (3.19)

が応力テンソルの定義式である。この定義式をCauchyの定理 と呼ぶこともある。この式(3.19)を直接表記あるいは行列表記し

\begin{displaymath}
\fat{t}\sub{\bf n}(\fat{x})=\fat{n}(\fat{x}) \fat{\sigma}(\fat{x}),\quad
\vect{t\sub{n}}=\mat*{\sigma} \vect{n}
\end{displaymath}

と考え, 応力テンソルをベクトル間の写像として定義する人もいるようだ。 このように応力3.6 ある面の外向き法線ベクトルと関連させて 定義されるため,その正の向きは内部表面の向きに依存している。 これについては次節で定義する。応力成分$\sigma_{ij}$のうち, 内部表面の法線方向($i=j$)成分を直応力 と呼び,接線方向($i\neq j$)成分をせん断応力 と呼ぶ。

図 3.11: 応力テンソル成分の定義
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(315,180.16)(106,-...
... (string)
\put(284,38.16){{$\fat{t}_2$}}
%
\end{picture}\end{center}\end{figure}

ここまでの図-3.10や式(3.18)で 用いた応力テンソルの成分の定義,つまり添え字の規則については, まだ明確にしていなかった。 これは図-3.11のようにするのが通例である。 法線$\fat{n}$を持つ面に作用する表面力ベクトルを $\fat{t}\sub{\bf n}$と 定義したので,座標の単位ベクトル方向を法線とする微分表面要素を 物体内部に設定した場合,例えば 図示したように,$\fat{e}_2$方向あるいは$\fat{e}_3$方向を法線とする 面に生じた表面力ベクトルを,それぞれ$\fat{t}_2$あるいは$\fat{t}_3$と 表すことにする。 そこで,このベクトルの各座標方向成分を

\begin{displaymath}
\fat{t}_2=\sum_{j=1}^3 \sigma_{2j} \fat{e}_j, \quad
\fat{t}_3=\sum_{j=1}^3 \sigma_{3j} \fat{e}_j
\end{displaymath}

のように分解して,その成分を$\sigma_{2j}$あるいは$\sigma_{3j}$ ($j=1$, 2, 3)と定義することにする。すなわち,一般的には

\begin{displaymath}
\fat{t}_i=\sum_{j=1}^3 \sigma_{ij} \fat{e}_j
\end{displaymath} (3.20)

となる。 したがって$\sigma_{ij}$の添え字のうち,前の添え字$i$が表面力ベクトルを 定義する物体内の面の法線方向を, うしろの添え字$j$が応力成分の力の向きを表している3.7ことに注意すべきである。 もちろん後述のように,多くの場合応力テンソルは対称テンソルなので, ここに明記したような添え字の区別が重要になることは無いが,偶応力 や分布外力モーメントが存在する場合[51], あるいは大変形問題を対象とする場合には, この区別が重要になることがあるので注意する。

ところでストレス (応力)という言葉について, 文献[88]に面白い記述がある。 それを引用すると次のように(原文縦書き)なる。

 まず、ストレスとは何か。言葉本来の意味としては、刺激、 もしくは固くしめつけることでありますね。<中略>

 力学のほうでは、物体に外から力が加えられた時、その内部に 生じる歪ゆがみをストレスと呼んでおりますね。

 その内部に生じる歪みという意味を、カナダの病理学者ハンス・セリエ が医学に導入いたしました。これがストレス学説でありまして、<後略>

これは確かに間違った記述である。ただ我々でも医学用語と しての「ストレス」の感覚的認識は,身体の中の何らかの(精神的 なものも含めて)ゆがみになってないだろうか。 筋肉の動作や図-3.8を見ると, もしかしたらそれが本質かもしれない。 実際には変形を伴わない応力には意味が無く, 裏返して考えると『「力」の次元を持った「変形(歪ゆがみ)」』が 応力の真義なのかもしれない。呵呵。閑話休題。

3.2.3 応力で表したつり合い

図 3.12: 応力テンソル成分と外力との関係
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(226,180)(92,-5)...
...{\xpt\rm$\sigma_{11}+\dint\sigma_{11}$}}
%
\end{picture}\end{center}\end{figure}

上式(3.19)で定義された物体内部の応力成分は, 外力が作用して静止した状態の物体内のすべての「点」においても つり合い状態にあるはずだ。 そこで簡単のために再度2次元で描いた図-3.12を 用いて,そのつり合い式を誘導する。 前節で定義したように応力は作用面外向き方向が正であったため, この図のように,面の外向き法線が座標の正方向を向いている面 (正の面 )では座標の正方向成分を正の応力成分とする。 逆に負の面 では座標の負方向成分を正の応力成分と定義する。 「表面」が指定されて初めて定義できるはずの応力が 任意の物質「点」(面積が無い)でつり合うというところが, 連続体力学を理解する上での次の難所であろうが, この図のように小さい領域を考えたあとに$\dint x_i$を零にする極限を 考えるという, 数理モデル上のつり合いであることを理解して欲しい。

応力が単位面積当たりの力であることを念頭に置いて,この 図の奥行方向の厚さを1だと考えれば,例えば$x_1$方向の 力のつり合いは

\begin{displaymath}
\dint x_2 (\sigma_{11}+\dint\sigma_{11})-\dint x_2 \sigma_...
...t\sigma_{21})-\dint x_1 \sigma_{21}+
X_1\dint x_1\dint x_2=0
\end{displaymath}

であることから,つり合い式は

\begin{displaymath}
\D{\sigma_{11}}{x_1}+
\D{\sigma_{21}}{x_2}+X_1=0
\end{displaymath}

となる。ここに$X_1$は体積力 ベクトル$\fat{X}$$x_1$方向成分で, 単位体積当たりに作用する力の次元を持ち,例えば自重のような ものをモデル化したものである。$x_2$方向も同様に誘導できることから,結局

\begin{displaymath}
\sum_{j=1}^2\D{\sigma_{ji}}{x_j} + X_i = 0 \quad (i=1,2)
\end{displaymath} (3.21)

が2次元の応力成分のつり合い式になる。3次元の場合は

\begin{displaymath}
\sum_{j=1}^3 \D{\sigma_{ji}}{x_j} + X_i = 0 \quad (i=1,2,3)\...
...樟槁週C垢襪\quad \fat{\nabla} \fat{\sigma}+\fat{X}=\fat{0}
\end{displaymath} (3.22)

がそのつり合い式 である。ここの応力成分の添え字の順番には注意して欲しい。 多くの文献では,この順番が逆になっているが,それは次のモーメントの つり合いが成立する場合にのみ正しく,そのときの直接表記はかえって 面倒になる。

一方,図-3.12の点A回りのモーメントの つり合いを考えると

\begin{eqnarray*}
&& \dfrac{\dint x_1}{2}
\left\{\dint x_1 \left(\sigma_{22}+\...
..._1\dint x_2 X_2
-\dfrac{\dint x_2}{2}\dint x_1\dint x_2 X_1=0
\end{eqnarray*}

となることから,辺々 $\dint x_1\dint x_2$で除すると 第1次項が $\sigma_{21}=\sigma_{12}$となる。 すなわち3次元でのモーメントのつり合い式

\begin{displaymath}
\sigma_{ij}=\sigma_{ji} \quad (i\neq j,    i,j=1,2,3)
\end{displaymath} (3.23)

である。式(3.6)で定義されたひずみテンソル成分は その定義から対称になっていたが,応力テンソル成分はモーメントの つり合いから対称となっている。ただし, 大きな変形を扱う場合に用いる応力テンソルには 対称にならないもの(第1 Piola-Kirchhoff応力[127])も存在するし,偶応力 や分布外力モーメントが存在する場合[51]には 式(3.23)は成立しない。

3.2.4 境界条件

図-3.9のような物体のつり合い状態を解析する場合, その物体の外部表面では境界条件を与える必要がある。 それには主に2種類の条件がある。 一つはその表面の運動を規定するものであり, もう一つはその表面に作用している外力を与えるものである。 前者は表面での変位を与えればいいから変位の境界条件 と呼ば3.8れ,後者は表面近傍で表面3.9外力 ベクトル$\fat{F}$と応力が つり合うようにすればいいから力の境界条件 と呼ばれ3.10る。具体的に式で表現すると,任意の表面で

\begin{twoeqns}
\EQab u_i=\bar{u}_i \quad \mbox{あるいは}\quad
\EQab F_i = \sum_{j=1}^{3} n_j \sigma_{ji} \quad (i=1,2,3)
\end{twoeqns}

(3.24)



のいずれかが与えられることになる。ここに$\bar{u}_i$は 境界で与える変位成分の値である。また式(3.24b)は, 式(3.19)を外部表面で立てたもので, この$\fat{n}$は外部表面の外向き法線単位ベクトルである。

式(3.24)の二つが基本的な境界条件であるが, それを組み合わせた条件もあり得る。 それは第3種の境界条件 と呼ばれ3.11ることがあり,弾性的に支持されている表面での条件がその代表である。 具体的には,例えば摩擦の無い弾性支持壁の単位面積当たりの 法線方向$\fat{n}$の反力バネ係数を$k_n$としたとき,その条件は

\begin{displaymath}
k_n u_n+t_n=0, \quad t_t=0, \quad
u_n\equiv \fat{u}\cdot\...
...} \fat{\sigma},
\quad \fat{t}_t\equiv \fat{t}-t_n \fat{n}
\end{displaymath} (3.25)

あるいは

\begin{displaymath}
k_n \sum_i u_i,n_i +
\sum_i\sum_j n_j \sigma_{ji} n_i =...
...\sum_j n_j \sigma_{ji}-n_i\sum_j \sum_k n_j \sigma_{jk} n_k
\end{displaymath}

と表すことができる。 ここに$u_n$は表面の外向き法線$\fat{n}$方向の変位成分であり,$t_n$は 表面力$\fat{t}$の外向き法線方向成分である。また$t_t$は接線方向成分になる。

  1. 式(3.25)の第3種の境界条件で表現できる 境界表面の弾性壁に摩擦があり,その表面の単位面積当たりの接線方向の 反力バネ係数が$k_t$のとき,接線方向の境界条件を求めよ。


3.2.5 外力のつり合いと 内力のつり合い--巨視的なつり合いと局所的なつり合い

ある物体の表面$S$に単位表面当たり$\fat{F}$という外力表面力(反力も 零外力も含む)が作用し, 物体内部$V$の単位体積当たりの分布外力が$\fat{X}$である場合, 物体全体の外力同士の巨視的なつり合い式は

\begin{displaymath}
\int_S \fat{F}\dint S + \int_V \fat{X}\dint V=\fat{0} \quad\mbox{つまり}\quad
\int_S F_i\dint S + \int_V X_i\dint V = 0
\end{displaymath}

である。この第1項の$F_i$に力の境界条件式(3.24b)を代入すると

\begin{displaymath}
0= \int_S \sum_j n_j \sigma_{ji} \dint S + \int_V X_i\dint V
\end{displaymath}

となる。第1項に任意のテンソル成分$T_{mijk...}$に 対するGaussの発散定理

\begin{displaymath}
\int_S \sum_m n_m T_{mijk...}\dint S=
\int_V \sum_m \D{T_{mijk...}}{x_m}\dint V
\eqno{(*)}
\end{displaymath}

を用いると,上式は

\begin{displaymath}
0 = \int_V \sum_j \D{}{x_j} \sigma_{ji} \dint V + \int_V X_i...
...t\{ \sum_{j=1}^3 \D{\sigma_{ji}}{x_j} + X_i \right\} \dint V=0
\end{displaymath}

となり,被積分関数は応力のつり合い式(3.22)に一致する。 つまり,式(3.22)は物体$V$の中の 任意の点$\fat{x}$において局所的に成立すべきつり合い式であることが わかる。

同様に,全外力のモーメントの巨視的なつり合いは

\begin{displaymath}
\int_S\fat{x}\times\fat{F}\dint S+\int_V \fat{x}\times\fat{X...
...t S
+ \int_V \sum_j\sum_k \epsilon_{ijk} x_j X_k\dint V = 0
\end{displaymath}

となる。ここに $\epsilon_{ijk}$交代記号 (テンソル成分ではない)と呼ばれ

\begin{displaymath}
\epsilon_{ijk}=\left\{
\begin{array}{ll}
+1 & \mbox{ もし(...
...置換である場合} \\
0 & \mbox{ それ以外}
\end{array} \right.
\end{displaymath} (3.26)

という値を持つ。偶置換 とは,($ijk$)の組が(123) (231) (312)の順の組のいずれかの場合で,奇置換 は(321) (213) (132)の順の組のいずれかの場合である。 これはベクトルの外積を成分表示する場合に便利な記号である。

さて,上式第1項の$F_i$に再度力の境界条件式(3.24b)を代入すると

\begin{displaymath}
0 = \int_S \sum_j\sum_k\sum_l \epsilon_{ijk} x_j n_l \sig...
...\dint S
+ \int_V \sum_j\sum_k \epsilon_{ijk} x_j X_k\dint V
\end{displaymath}

となるので,また式($*$)のGaussの発散定理を 第1項に適用すれば

\begin{displaymath}
=\int_V \sum_j\sum_k\sum_l \epsilon_{ijk}\D{}{x_l}
\left(x_...
...\dint V
+ \int_V \sum_j\sum_k \epsilon_{ijk} x_j X_k\dint V
\end{displaymath}

すなわち

\begin{displaymath}
=\int_V \sum_j\sum_k \epsilon_{ijk}
\left( \sigma_{jk}+ \su...
...\dint V
+ \int_V \sum_j\sum_k \epsilon_{ijk} x_j X_k\dint V
\end{displaymath}

となる。この第1項の被積分関数の第2項に つり合い式(3.22)を代入すると,結局

\begin{displaymath}
= \int_V \sum_j\sum_k \epsilon_{ijk}
\left( \sigma_{jk}-x_j...
... V
= \int_V \sum_j\sum_k \epsilon_{ijk}  \sigma_{jk} \dint V
\end{displaymath}

となる。さらに

\begin{eqnarray*}
&=& \int_V \sum_j\sum_k \left(
\dfrac12 \epsilon_{ijk}  \sig...
...12 \epsilon_{ijk}
\left( \sigma_{jk}-\sigma_{kj} \right)\dint V
\end{eqnarray*}

となることから,応力で表したモーメントの局所的なつり合い 式(3.23)を,被積分関数に得る。


3.2.6 応力の主方向と不変量

3.2.6.1 主応力

ひずみの場合に見た写真-3.2からは, ひずみテンソルには主方向があり,任意のひずみ状態は その主方向への三つの伸び縮み成分だけで表現できることがわかっていた。 それならば同様に, 応力テンソルにも主方向がありそうだ。つまり,ある向きの内部表面には せん断応力成分が発生しておらず,その面の法線方向のみの応力 成分しか存在しない面がありそうだ。そのような面の法線 方向を応力の主方向 と呼んでいる。 主方向の単位ベクトルを $\widetilde{\fat{n}}$としたとき, その面の表面力はこの法線方向と平行になるはずだから,式(3.19)より

\begin{displaymath}
\fat{t}\sub{\bf n} \parallel \widetilde{\fat{n}} \quad\to\q...
...,\widetilde{n}_i \quad (i=1,2,3)
\index{-parallel@$\parallel$}
\end{displaymath}

という関係にあるはずだ。ここに$\parallel$は平行を意味する記号であり, スカラー係数$\sigma$はその主方向の応力成分の大きさで主応力 と呼ばれる。すなわち,上式から

\begin{displaymath}
\mat*{\sigma} \vect{\widetilde{n}}=\sigma \vect{\widetilde{n}}
\end{displaymath}

あるいは

\begin{displaymath}
\sum_j \widetilde{n}_i \left(\sigma_{ji}-\sigma \delta_{ji...
...} - \sigma \mat{I_3} \right) \vect{\widetilde{n}}
=\vect{0}
\end{displaymath}

を満足する向き $\widetilde{\fat{n}}$と主応力$\sigma$とが存在する。 ここに$\mat{I_3}$は3$\times$3の単位行列である。 式(3.23)のモーメントのつり合いより,応力を 行列表示したものは対称行列になることから,上の式の一番右の行列表示式は

\begin{displaymath}
\left( \mat{\sigma} - \sigma \mat{I_3} \right) \vect{\widetilde{n}}
=\vect{0}
\end{displaymath} (3.27)

と書いてもいい。 式(3.27)は行列$\mat{\sigma}$の固有値を$\sigma$と したときの標準的な固有値問題を形成しており, その固有ベクトル方向が主方向になっている。したがって主応力は

\begin{displaymath}
\det\left\vert\mat{\sigma}-\sigma \mat{I_3}\right\vert=0
\end{displaymath} (3.28)

で決定され,結果を上式(3.27)に代入し直せば 主方向 $\widetilde{\fat{n}}$を 求めることができる。$\mat{\sigma}$が対称行列なので, 一般に主応力は実数で三つ存在する。

例えば2次元で計算してみよう。式(3.27)は

\begin{displaymath}
\left(\left(\begin{array}{cc}
\sigma_{11} & \sigma_{21}  ...
...y}{c}
\widetilde{n}_1  \widetilde{n}_2
\end{array}\right\}
\end{displaymath}

となり,式(3.28)の最終的な形

\begin{displaymath}
\sigma^2 - (\sigma_{11}+\sigma_{22}) \sigma+
(\sigma_{11}\sigma_{22}-\sigma_{12}\sigma_{21})=0
\end{displaymath} (3.29)

が二つの主応力$\sigma\sub{I}$, $\sigma\sub{II}$を決定する。 通常,正の大きい方から順番にI, IIとする。これを 上式に代入し直せば

\begin{displaymath}
\dfrac{\widetilde{n}_2}{\widetilde{n}_1}=
\dfrac{\sigma_{12}}{\sigma-\sigma_{22}}=
\dfrac{\sigma-\sigma_{11}}{\sigma_{21}}
\end{displaymath} (3.30)

という関係になるので,このいずれかの式の$\sigma$に 主応力$\sigma\sub{I}$あるいは $\sigma\sub{II}$を代入すれば, それぞれの主方向 $\widetilde{\fat{n}}\sub{I}$, $\widetilde{\fat{n}}\sub{II}$の座標成分を求めることができる。 ここでは $\vect{\widetilde{n}}$を 単位ベクトルとしているので,唯一に決定することができる。

もし主応力を決定する 式(3.28)が重根を持つ場合,少なくとも2方向の 主応力が等しくなり,主方向は唯一には決定できなくなる。2次元の 場合のひずみで考察するとわかり易いが,そのような 場合には写真-3.2の変形後の楕円が円のままに なっていることに相当する。それはすべての方向に一様に伸び あるいは縮みが生じている状態に等しい。そして円の場合には,楕円の長短軸に 相当する主方向を任意の(しかも直交しなくてもいい)方向に 取ることができることから,その主方向は唯一には決定されないわけである。 応力の場合も同様で,重根の場合には,それに関連した面内に一様な 引張りか圧縮が生じているため,すべての方向が主方向の候補になり, したがって主方向を唯一には決定できない。

さて,異なる二つの主応力と主方向は例えば行列表示ではそれぞれ

\begin{displaymath}
\mat*{\sigma}  \vect{\widetilde{n}\sub{I}}=
\sigma\sub{I}...
...I}}=
\sigma\sub{II} \vect{\widetilde{n}\sub{II}}% \eqno{(a)}
\end{displaymath}

を満足している。この第1式に 左から $\vect{\widetilde{n}\sub{II}}\supersc{t}$を, 第2式に左から $\vect{\widetilde{n}\sub{I}}\supersc{t}$を 乗じると,それぞれ

\begin{displaymath}
\vect{\widetilde{n}\sub{II}}\supersc{t} 
\mat*{\sigma}  \...
...idetilde{n}\sub{I}}\supersc{t} 
\vect{\widetilde{n}\sub{II}}
\end{displaymath}

となる。これはスカラーなので,第2式の転置は行列演算の規則を用いれば

\begin{displaymath}
\vect{\widetilde{n}\sub{II}}\supersc{t} 
\mat{\sigma}  \v...
...idetilde{n}\sub{II}}\supersc{t} 
\vect{\widetilde{n}\sub{I}}
\end{displaymath}

とも書くことができるから,すぐ上の左の式からこの式を辺々差し引き, 応力の対称性を利用すると左辺は零になる。よってその右辺から

\begin{displaymath}
\vect{\widetilde{n}\sub{II}}\supersc{t} 
\mat*{\sigma}  \...
...idetilde{n}\sub{II}}\supersc{t} 
\vect{\widetilde{n}\sub{I}}
\end{displaymath}

という関係を得る。 したがって,主応力同士が異なる $\sigma\sub{I}\neq\sigma\sub{II}$の場合には

\begin{displaymath}
0= \vect{\widetilde{n}\sub{II}}\supersc{t} 
\vect{\widetilde{n}\sub{I}}
\end{displaymath}

が結論付けられる。つまり異なる主方向同士は直交している。3次元で の一般的な表現をするなら,異なる主応力に対応する主方向同士は

\begin{displaymath}
\widetilde{\fat{n}}\sub{i}\cdot\widetilde{\fat{n}}\sub{j}=0 ...
...d
(\mbox{i}\neq \mbox{j};\quad \mbox{i, j}=\mbox{I, II, III})
\end{displaymath} (3.31)

となりお互いに直交している。ただし,二つの主応力が同じ場合には, 主方向を唯一に定めることはできないが,直交する方向に選ぶことはできるだろう。

3.2.6.2 応力行列の一表現

式(3.27)をじぃーっと眺めていると,次のように 応力行列を表示できることがわかる(人はたいしたものです。 第1著者は逆算。呵呵)。 テンソルのスペクトル表示 と呼ばれることもある。

\begin{displaymath}
\mat{\sigma}=\sum_{\mbox{\scriptsize i}=\mbox{\scriptsize I}...
...II}   
\end{array}\right\}
\end{array}\right)\supersc{t}
\end{displaymath} (3.32)

つまり,式(3.32)の 両辺に $\vect{\widetilde{n}\sub{j}}$を乗じると

\begin{displaymath}
\mat{\sigma} 
\vect{\widetilde{n}\sub{j}}
=\sum_{\mbox{\sc...
...idetilde{n}\sub{i}}\supersc{t}  
\vect{\widetilde{n}\sub{j}}
\end{displaymath}

となるものの,右辺の右端の内積は式(3.31)の 直交性を考えると $\mbox{i}=\mbox{j}$のとき以外は零になるため,結局上式は

\begin{displaymath}
\mat{\sigma} 
\vect{\widetilde{n}\sub{j}}
= \sigma\sub{j} \vect{\widetilde{n}\sub{j}} \quad
(\mbox{j}=\mbox{I, II, III})
\end{displaymath}

となり,式(3.27)に帰着する。意味を考えてみよう。

応力テンソルは六つの座標成分の組で表すこともできるが, その六つの値は座標系のとり方によって違ってくる。 しかし上式のように,三つの固有値とそれぞれに対応する三つの 主方向ベクトル(三つの成分が独立した単位直交ベクトルの組)と の組み合わせでも表現できるということは, 座標系とは全く無関係の六つの量で応力テンソルが決定できている ことを示している。これが「テンソル」である由縁ではないだろうか。 あるいは式(3.32)を,三つの基底のテンソル $\vect{\widetilde{n}\sub{i}} 
\vect{\widetilde{n}\sub{i}}\supersc{t}$で 応力テンソルを分解したときのそれぞれの成分が主応力であると 見る人もいるようだ。 特に材料の抵抗則(応力ひずみ関係)を考える場合には,それは本質的に座標系とは 無関係でなければならないから,主応力や主ひずみ(主伸び)を用いることもある。

3.2.6.3 応力の不変量

上で見たように,ひずみテンソルと同様, 応力テンソル成分は用いる座標のとり方に依存して 値は変化してしまう。しかし,ある応力状態に対して,その主応力は その物体点における抵抗力の物理的な特性の一つであって, 座標のとり方とは全く関係の無い値と向きを持っている。 したがって,上式(3.29)の2次方程式の 根と係数の関係から得ることができる

\begin{displaymath}
\mbox{I(2次元)}_\sigma \equiv
\sigma_{11}+\sigma_{22}=\sig...
..._{22}-\sigma_{12} \sigma_{21}
=\sigma\sub{I} \sigma\sub{II}
\end{displaymath} (3.33)

で定義した二つの量は,座標系に依存しない量になる。 このような量を不変量 と呼んでいる。

3次元の一般的な表現を示すと,主応力を決定する式は

\begin{displaymath}
\sigma^3-\mbox{I}_\sigma \sigma^2+\mbox{II}_\sigma \sigma
-\mbox{III}_\sigma =0
\end{displaymath} (3.34)

と書け,それぞれ

\begin{manyeqns}
\mbox{I}_\sigma =\mbox{I}_1 &\equiv& \sum_{i=1}^3\sigma_{ii}...
...igma}\right\vert=
\sigma\sub{I} \sigma\sub{II} \sigma\sub{III}
\end{manyeqns}



(3.35)



応力の第1〜第3不変量 である。第1不変量は行列表示したときの跡 に相当する。 これに対応させて,ひずみの不変量も定義できる。 このような不変量も材料の抵抗則(応力ひずみ関係)を表現するのに 適しており,実際に塑性の基礎式で用いられている。

  1. 次の応力状態(?)における主応力と主方向を求めよ。

    \begin{displaymath}
\mat{\sigma}=\left(\begin{array}{ccc}
1 & 0 & 0 \\
0 & 2 & 3 \\
0 & 3 & 4
\end{array}\right) \qquad\qquad \mbox{MPa}
\end{displaymath}

3.2.7 応力成分の座標変換

応力テンソルもひずみテンソルと同様,同じ状態であっても, 異なる座標系に対しては異なる値をその成分は持つ。 式(3.11)の座標変換行列の定義から

\begin{displaymath}
\fat{e}_k=\sum_i T_{ik} \bar{\fat{e}}_i, \quad
\bar{\fat{e}}_k=\sum_i T_{ki} \fat{e}_i, \quad
\bar{n}_l=\sum_j T_{lj} n_j
\end{displaymath}

という関係があるので,式(3.19)のCauchyの定理より

\begin{eqnarray*}
\fat{t}\sub{\bf n}&=&
\sum_i (t\sub{n})_i \fat{e}_i
= \sum...
...um_l \bar{\sigma}_{lk} T_{lj} T_{ki}\right)\right\}
\fat{e}_i
\end{eqnarray*}

という関係を得る。結局ひずみの座標変換則と同じく

\begin{displaymath}
\sigma_{ij}=\sum_{k=1}^3\sum_{l=1}^3
\bar{\sigma}_{kl} T_{ki} T_{lj}
\end{displaymath} (3.36)

を得る。あるいは行列表示して

\begin{displaymath}
\mat{\sigma}=\mat*{T}  \mat{\bar{\sigma}} \mat{T}, \quad
\mat{\bar{\sigma}}=\mat{T}  \mat{\sigma} \mat*{T}
\end{displaymath} (3.37)

と表現できる。2階のテンソル成分はすべて同じ座標変換則に従う。

この応力の座標変換則を踏まえると,式(3.32)の 意味はもう少し理解し易くなる。その式(3.32)の 左右から,主方向ベクトルでできた座標変換行列を乗じると

\begin{displaymath}
\left(\begin{array}{@{}c@{}c@{}c}
\left\{\begin{array}{@{}c...
...b{II} & \\
\bigzerol & & \sigma\sub{III}
\end{array}\right)
\end{displaymath}

という表現も可能になる。 左辺は,応力テンソルの主方向を基底ベクトルとする 座標方向に,その応力テンソルを変換したものである。 右辺は,その座標系では直応力成分しか生じていないことを示している。 この式の方が,主応力の意味を理解し易い人は多いかもしれない。

  1. $x_1$方向の直応力が $\sigma_{11}=\sigma_0$で 他のすべての応力成分が零である1軸引張り状態を,$x_3$軸の 反時計回りに45度回転させた座標系の成分で表示せよ。

3.2.8 静水圧成分とせん断応力成分

ひずみテンソルが体積ひずみ成分と偏差ひずみ成分(せん断ひずみ成分)に 分解できたように,応力テンソルも, 平均応力と偏差応力の2成分に分解できる。それを定義しておこう。 まず,平均応力

\begin{displaymath}
\sigma_0\equiv
\dfrac13 \left(\sigma_{11}+\sigma_{22}+\sigma_{33}\right)
=\dfrac13   \mbox{I}_\sigma
\end{displaymath} (3.38)

で定義する。引張りを正にした静水圧 と考えていい。 つまり,水中のある深さにおける応力状態は四方八方から 同じ圧力を受けていて,それを静水圧と称していることから,この 定義がある。式(3.35)より,平均応力の3倍は応力の 第1不変量 でもある。 同様に式(3.14)の体積ひずみ成分は ひずみの第1不変量 である。

応力テンソル成分からこの平均応力成分を取り除いた部分を, 式(3.15)と同様偏差応力 テンソル成分と呼び

\begin{displaymath}
\sigma'_{ij}\equiv \sigma_{ij}-\sigma_0 \delta_{ij}
\end{displaymath} (3.39)

で定義する。 偏差ひずみと同様,この偏差応力テンソル成分もある物体点に 発生している抵抗力のうちのせん断応力成分に相当する。


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Iwakuma Tetsuo
Mon, 18 Feb 2013 12:48:52 +0900 : Stardate [-28]8120.79