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3.5 弾性問題の例


3.5.1 動的問題の例

3.5.1.1 固体中を伝播する波

静的な問題はあとでやることにして, 式(3.22)の応力のつり合い式を動的な問題に対して 拡張しよう。そのためにはNewtonの法則に従って右辺に慣性力項を加えればいい。 つまり,密度を$\rho$とすると

\begin{displaymath}
\sum_{j=1}^3 \D{\sigma_{ji}}{x_j} + X_i = \rho \ddot{u}_i \quad
\end{displaymath} (3.96)

となる。上に付したドットは時間微分である。 これに式(3.42)のHookeの法則を代入し, 式(3.6)のひずみの定義を代入すると

\begin{displaymath}
\mu\sum_j\left( \D[2][1][x_i]{u_j}{x_j}+\D[2]{u_i}{x_j}\right)
+\lambda\sum_j\D[2][1][x_i]{u_j}{x_j}+X_i=\rho \ddot{u}_i
\end{displaymath}

となる。ここで,変位場がHelmholtz分解定理 を用いて2種類のポテンシャルで与えられるとすると

\begin{displaymath}
\fat{u} = \fat{\nabla}\phi+\fat{\nabla}\times\fat{\psi}, \qu...
...\fat{\nabla}\cdot\fat{\psi}=0, \quad
\sum_i \D{\psi_i}{x_i}=0
\end{displaymath} (3.97)

と置くことができる。同様に分布外力も分解できるとして

\begin{displaymath}
\fat{X}=\fat{\nabla}F+\fat{\nabla}\times\fat{G}, \quad
\mbox{ただし } \fat{\nabla}\cdot\fat{G}=0
\end{displaymath} (3.98)

と置くことができるものとする。

この2式を上の運動方程式に代入して若干の演算をすると, 最終的に次のようになる。

\begin{displaymath}
\D{}{x_i} \left\{ (\lambda+2\mu) \sum_j \D[2]{\phi}{x_j}
+...
...sum_j \D[2]{\psi_l}{x_j} + G_l
- \rho \ddot\psi_l \right\}=0
\end{displaymath}

これより,分布外力が無い場合に2種類のポテンシャルが満足すべき式は

\begin{displaymath}
\nabla^2 \phi = \dfrac{1}{c\subsc{l}^2} \ddot{\phi}, \quad...
...bla^2 \fat{\psi} = \dfrac{1}{c\subsc{t}^2} \ddot{\fat{\psi}}
\end{displaymath} (3.99)

となり,2種類の波動方程式 の基本的な形式を得ることができる。ここに

\begin{twoeqns}
\EQab c\subsc{l}\equiv\sqrt{\dfrac{\lambda+2\mu}{\rho}}, \quad
\EQab c\subsc{t}\equiv\sqrt{\dfrac{\mu}{\rho}}
\end{twoeqns}

(3.100)



位相速度 (波の伝わる速度)で,$c\subsc{l}$は縦波 あるいは体積波(Pressure波;地震波ならPrimary波,P波)の 位相速度,$c\subsc{t}$は横波 あるいはせん断波(Shear波;地震波ならSecondary波,S波)の位相速度である。

3.5.1.2 非圧縮性流体と完全流体

前節と同じような考察を流体に対して試みよう。一般に流体はほぼ 非圧縮性を持つとモデル化されるので,式(3.14)の 体積ひずみが常に零である。流体の場合はひずみそのものよりひずみ 速度に着目するので,変位ではなく速度で非圧縮性 を定義しておくと

\begin{displaymath}
\sum_j \D{v_j}{x_j} =0, \qquad \fat{v}\equiv\dot{\fat{u}}=
\sum_j v_j \fat{e}_j
\end{displaymath} (3.101)

となる。ここに$\fat{v}$は速度ベクトルであり, この条件式を,主に流体屋さんは連続の式 と呼ぶこともある。 そうなると式(3.42)のHookeの法則の右辺第2項は 意味が無いが,体積が変化しないように流体が抵抗を しており,それが材料の抵抗特性とは関係の無い 独立な関数「静水圧$p(\fat{x})$」として存在することになる。 つまり式(3.40)で$\Delta\to 0$であり ながら$\sigma_0=-p$が有界で存在する材料が非圧縮性材料である。 すなわち$K\to\infty$,さらに式(3.44d)より $\nu\to\slfrac12$である ような材料に相当する。 したがって,応力ひずみ関係式(3.42)は

\begin{displaymath}
\sigma_{ij}=
2\mu \dot{\epsilon}_{ij} - p  \delta_{ij}, \quad
\sum_j \dot{\epsilon}_{jj}=0
\end{displaymath} (3.102)

としなければならない。ここの$p$が圧縮を正にした通常の静水圧 である。 この場合の$\mu$はひずみ速度に比例した抵抗比例係数なので 粘性係数である。Hookeの法則を式(3.102)で 置き換えた上で運動方程式に代入し,分布外力が流体の 自重だけなら $\fat{X}=\rho \fat{f}$と置けるので

\begin{displaymath}
\mu\sum_j\D[2]{v_i}{x_j}-\D{p}{x_i}+\rho \left(f_i-\dot{v}_i\right)=0
\end{displaymath} (3.103)

となる。これはNavier-Stokesの式 として知られている。

ところで流体の場合,速度は流体中の粒子の速度というより, 観察している点の(ガラスの水槽の側面にマークを記し,そこの 現象を観察した)速度である。しかし,慣性項の速度の 時間微分は粒子の加速度でなければならず,結局上式の ドットは物質微分 つまり

\begin{displaymath}
\dot{v_i}=\D{v_i}{t}+\sum_j \D{v_i}{x_j} v_j
\end{displaymath} (3.104)

とする必要がある。式(3.104)の右辺第2項は移流項 と呼ばれる。 通常,固体力学が物質点($\fat{x}$が固体中の 粒子に付けた名前である)を追跡するLagrange手法 をとるのに対し,流体力学では空間位置($\fat{x}$は流体とは関係無く 空間内の観測位置である)で現象を捉えるEuler手法 を用いる。

さらに粘性を持たない($\mu=0$)完全流体 に,スカラーポテンシャル$F$のみで 与えられる(非回転流 に対応した)分布外力

\begin{displaymath}
f_i=-\D{F}{x_i}
\end{displaymath}

だけが作用し, さらに定常状態にある( $\slfrac{\partial v_i}{\partial t}=0$)場合には, 式(3.103)のNavier-Stokesの式に 式(3.104)を考慮して演算したあと,整理すると

\begin{displaymath}
- \D{}{x_i}\left\{
\dfrac12 \rho\sum_j v_j v_j + p + \rho F
\right\}=2\rho \sum_j \dot{\omega}_{ij} v_j
\eqno{(*)}
\end{displaymath}

となる。ただし $\dot{\omega}_{ij}$スピン テンソル成分を形式的に表したもので

\begin{displaymath}
\dot{\omega}_{ij}\equiv \dfrac12\left(\D{v_i}{x_j}-\D{v_j}{x_i}\right)
\end{displaymath}

である。上式($*$)の括弧内第1項は速度ベクトルの大きさの2乗になっている ので単に$v^2$と記すことにする。もし非回転の運動しかしていない 場合には右辺の $\dot{\omega}_{ij}$は零になり,結局いたるところで

\begin{displaymath}
\dfrac12 \rho v^2+p+\rho F=\mbox{const.}
\end{displaymath}

である。もし分布外力が重力場での自重のみであれば,重力 加速度$g$を用いて$F=g x_3$と置いてよく,上式は

\begin{displaymath}
\dfrac12 \rho v^2+p+\rho g x_3=\mbox{const.}
\end{displaymath} (3.105)

となる。これはBernoulliの式 である。非回転流ではない場合には,上式($*$)右辺を成分とする ベクトルと速度ベクトルの内積が零になることから,流線 に沿ってBernoulliの式が成立することになる。 流体力学(水理学)も変形できる物体の力学であることがわかると思う。

  1. 式(3.99)を誘導せよ。
  2. 式(3.103)を誘導せよ。
  3. 式(3.105)を誘導せよ。


3.5.2 平面問題

3.5.2.1 平面ひずみ問題

ここでは固体の問題に限定し,しかも3次元問題でありながら,見かけ上は ある平面上の問題として捉えることができる場合を対象とし, 応力関数による解法を例示する。平面問題であっても物体は3次元的に 抵抗して運動するので,2次元問題と呼んではいけない。

もし,$x_3$方向への物体の拡り方が一様でかつ他の2方向より 極端に大きい物体の場合,$x_3$方向の変位は無視できるほど 小さく,また応力やひずみ・変位を$x_3$には依存しない関数($x_3$方向には 一定)として捉えることができる。つまり「金太郎飴」 のある断面内での現象を対象にするようなものである。 このような場合を平面ひずみ 状態と呼ぶ。すなわち,変位に対して

\begin{displaymath}
u_3\equiv 0, \qquad u_i=u_i(x_1, x_2) \quad (i=1,2)
\end{displaymath} (3.106)

という制約がある場合に相当する。したがって式(3.42)に代入して

$\displaystyle \left\{
\begin{array}{l} \sigma_{11}   \sigma_{22} \end{array} \right\}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \left(\begin{array}{cc}
\lambda+2G & \lambda \\
\lambda & \lambd...
...1}   \epsilon_{22} \end{array} \right\},
\quad \sigma_{12}=2G \epsilon_{12},$ (3.107)
$\displaystyle \sigma_{33}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \lambda \left(\epsilon_{11}+\epsilon_{22}\right)\neq 0,
\quad \sigma_{23}=0, \quad \sigma_{31}=0$ (3.108)

という関係を得る。これから,$x_1$-$x_2$平面内での逆関係 は,式(3.44)で定義したPoisson比を用いると

\begin{displaymath}
\epsilon_{11} = \dfrac{1}{2G} \left\{\sigma_{11}
-\nu (\s...
...} \left\{\sigma_{22}
-\nu (\sigma_{11}+\sigma_{22})\right\}
\end{displaymath} (3.109)

となる。この関係を上式の$\sigma_{33}$の右辺に代入することによって

\begin{displaymath}
\sigma_{33}=\nu (\sigma_{11}+\sigma_{22})\neq 0
\end{displaymath} (3.110)

という応力の拘束条件が存在しているものと考えることもできる。$\sigma_{33}$が 零でないことには十分注意する必要がある。

ちなみに式(3.42)のHookeの法則を,ひずみを与える 式として書き直し,式(3.44)で定義したYoung率 とPoisson比を用いると

\begin{displaymath}
\epsilon_{33}=\dfrac{1}{E}\left\{
\sigma_{33}-\nu \left(\sigma_{11}+\sigma_{22}\right)\right\}
\end{displaymath} (3.111)

とも書くことができる。 平面ひずみ状態では $\epsilon_{33}=0$なので, この式からも式(3.110)を求めることができる。 なお,平面ひずみ場の平面内の弾性係数は同じ面内の3次元のそれに 等しいが,コンプライアンスが異なることには十分注意する。


3.5.2.2 平面応力問題

逆に,鋼の平板引張り試験のように,外力が作用していない平面同士の間隔 つまり平板試験片の厚さが比較的薄い物体を対象とする場合, その厚さ方向に$x_3$軸をとると,他の2方向に比べて$x_3$方向の 応力がそれほど大きくはならないだろうということは容易に予想できる。 したがって,その(現実には起こり得ない)近似として 応力状態が平面的であるような 場合を考え,平面応力 状態と呼ぶ。この条件を応力成分で表すと

\begin{displaymath}
\sigma_{3i}=0 \quad (i=1,2,3)
\end{displaymath} (3.112)

となる。これを式(3.42)に代入すれば

\begin{displaymath}
\epsilon_{33}=-\dfrac{\nu}{1-\nu}
\left(\epsilon_{11}+\epsi...
...eq 0, \quad
\epsilon_{23}=0, \quad \epsilon_{31}=0 \eqno{(*)}
\end{displaymath}

という制約条件を得るので,$x_1$-$x_2$面内での構成関係は

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l} \sigma_{11}  \sigma_{22} \end{arr...
...22} \end{array} \right\}, \quad
\sigma_{12}=2G \epsilon_{12}
\end{displaymath} (3.113)

となる。この逆関係

\begin{twoeqns}
\EQab
\epsilon_{11}=\dfrac{1}{E} \left(\sigma_{11}-\nu \sigma_...
...silon_{22}=\dfrac{1}{E} \left(\sigma_{22}-\nu \sigma_{11}\right)
\end{twoeqns}

(3.114)



となる。

この関係を用いれば,面外の条件式は

\begin{twoeqns}
\EQab
\epsilon_{33}=-\dfrac{\nu}{E} \left(\sigma_{11}+\sigma_{...
...
\neq 0, \quad
\EQab \epsilon_{23}=0, \quad
\EQab \epsilon_{31}=0
\end{twoeqns}

(3.115)



となる。平面ひずみの場合と同様,式(3.111)に 平面応力の拘束条件式(3.112)を代入しても,同じ関係を 得ることができる。 この式(3.115)あるいは上の式($*$)は,面外ひずみへの 拘束条件と捉えることができ,そういう意味でも現実に設定できる状態とは 考え難いため,近似的な状態であると考えなければならない。 なお,平面応力場の平面内のコンプライアンスは同じ面内の3次元のそれに 等しいが,弾性係数は異なることには十分注意する。

また,もし,例えば$x_1$方向への鋼の引張り試験のように, ほぼ応力が$\sigma_{11}$のみの1軸状態になっている場合には, この式(3.114)から

\begin{twoeqns}
\EQab \epsilon_{11}=\dfrac{\sigma_{11}}{E}, \quad
\EQab \epsilon_{22}=-\nu \epsilon_{11}, \quad \epsilon_{12}=0
\end{twoeqns}

(3.116)



という関係になり,試験片中央の2方向に貼付したひずみゲージの 読みと外力からYoung率とPoisson比が直接測定できる。 この最後の関係式(3.116a)を1次元のHookeの法則 と,この文書では呼ぶことにする。


3.5.2.3 ロゼットゲージとMohrのひずみ円

薄い肉厚の試験片で曲げ試験をする場合等に,任意点のせん断応力や 主応力を測定したい場合がある。このような場合には,任意の3方向の ひずみをひずみゲージで測定すれば三つのひずみ成分を求めることができ, 平面応力の応力ひずみ関係式から応力を算定できる。

図 3.17: 応力・ひずみ成分の座標変換とロゼットゲージ
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(323,103)(142,-5)
...
...)
\put(388,75){{\xpt\rm$\epsilon^{90}$}}
%
\end{picture}\end{center}\end{figure}

この3方向のひずみを測定するひずみゲージにロゼットゲージ がある。 ロゼットゲージは図-3.17の右にあるような3枚のひずみ ゲージの組でできている。斜めのものは水平軸に対して45度方向に 向いている。 まず図-3.17の左図のような座標系同士でのひずみ テンソル成分の変換則を陽に示すと,式(3.11)から

\begin{displaymath}
\mat{T}=\left(\begin{array}{ccc}
\multicolumn{1}{r}{\cos\alpha} & \sin\alpha  -\sin\alpha & \cos\alpha
\end{array}\right)
\end{displaymath}

であるから,式(3.13)は

\begin{eqnarray*}
\bar\epsilon_{11} &=& \epsilon_{11} \cos^2\alpha+\epsilon_{12...
...\alpha-\epsilon_{12} \sin 2\alpha
+\epsilon_{22} \cos^2\alpha
\end{eqnarray*}

と書くことができる。図-3.17右の ロゼットゲージの場合の$\epsilon^{45}$は 上の $\alpha=\slfrac{\pi}{4}$の場合の $\bar\epsilon_{11}$に相当するから

\begin{displaymath}
\epsilon^{45}=\epsilon_{12}+\dfrac12 (\epsilon_{11}+\epsilon_{22})
\end{displaymath}

となる。もちろん $\epsilon_{11}=\epsilon^0$, $\epsilon_{22}=\epsilon^{90}$であるから, 結局この測定点のせん断ひずみ成分を

\begin{displaymath}
\epsilon_{12}=\epsilon^{45}-\dfrac12 (\epsilon^0+\epsilon^{90})
\end{displaymath}

と得る。さらに,主ひずみ方向(主応力方向も同じ)は,上の ひずみ成分間の座標変換で $\bar\epsilon_{12}=0$になる方向であることから

\begin{displaymath}
\tan 2\alpha=\dfrac{2\epsilon_{12}}{\epsilon_{11}-\epsilon_{...
...lon^{45}-(\epsilon^0+\epsilon^{90})}{\epsilon^0-\epsilon^{90}}
\end{displaymath}

で決まる方向$\alpha $である。

図 3.18: Mohrのひずみ円
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(246,187)(192,-5)
...
...9.786,70.786){\arc{24.688}{5.44}{6.428}}
%
\end{picture}\end{center}\end{figure}

また薄片であることから平面応力場と近似でき,式(3.114)の 逆関係から

$\displaystyle \sigma_{11}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \dfrac{E}{1-\nu^2} (\epsilon^0+\nu\epsilon^{90})$  
$\displaystyle \sigma_{22}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \dfrac{E}{1-\nu^2} (\epsilon^{90}+\nu\epsilon^0)$ (3.117)
$\displaystyle \sigma_{12}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \dfrac{E}{1+\nu} 
\left\{\epsilon^{45}-\dfrac12 (\epsilon^0+\epsilon^{90})\right\}$  

という関係になる。主応力方向は主ひずみ方向と同じであり, 主応力は式(3.29)の解

\begin{displaymath}
\sigma\sub{i}=\dfrac12 (\sigma_{11}+\sigma_{22})\pm\dfrac12
\sqrt{(\sigma_{11}-\sigma_{22})^2+4 \sigma_{12}^2}
\end{displaymath}

になる。正の符号をとったものがi=Iであり,負の符号の場合がi=IIである。

ところで上の座標変換則は

\begin{eqnarray*}
\bar\epsilon_{11}&=&\dfrac{\epsilon_{11}+\epsilon_{22}}{2}+
\...
...1}-\epsilon_{22}}{2} \cos 2\alpha
-\epsilon_{12} \sin 2\alpha
\end{eqnarray*}

とも書くことができる。したがって

\begin{displaymath}
r^2\equiv \left(\dfrac{\epsilon_{11}-\epsilon_{22}}{2}\right...
...ight)^2, \quad
e \equiv \dfrac{\epsilon_{11}+\epsilon_{22}}{2}
\end{displaymath}

と定義しておくと,上の関係は

\begin{displaymath}
\left\{\bar\epsilon_{11}-e\right\}^2+\left\{\bar\epsilon_{12}\right\}^2=r^2
\end{displaymath} (3.118)

という関係を満足する。 この式は,第1項の $\bar\epsilon_{11}$ $\bar\epsilon_{22}$で 置き換えても同様に成立する。 この関係を図示したのが図-3.18である。 つまり,任意点の伸びひずみ成分とせん断ひずみ成分との関係は 図示したような円上の2点で指定できている。 また,横軸と円との交点がそれぞれ主ひずみになっている ことは, $\bar\epsilon_{12}=0$になる方向を $\alpha=\alpha_0$として, そのときの $\bar\epsilon_{11}$, $\bar\epsilon_{22}$がそれぞれ 主ひずみ $\epsilon\sub{I}$, $\epsilon\sub{II}$であることを上式に代入して 得ることができる $\epsilon\sub{I}=e+r$, $\epsilon\sub{II}=e-r$という 関係からも明らかである。 このような円をMohrのひずみ円 と呼ぶ。応力についても同様の円が描ける。


3.5.2.4 積層板の見かけ上のYoung率

章-8で紹介する平板理論では,板の拡がりに 比べて厚さが非常に薄いことを前提にしているため,その構成則には 平面応力問題のそれが用いられる。実際,鋼構造であれば, そのような近似は許容できそうである。 また,図-3.19のような繊維補強材 でできた複数の平板を,その繊維の向きが板毎に異なるように 層状に重ねて積層板 を作り,それを補強や橋梁自体に使うことがある。 多くはポリマーにガラス繊維(GFRP)や炭素繊維(CFRP)を 配合してある。この板も平面応力問題の構成則が用いられ, 式(3.114)を一般化して

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{c} \epsilon_{11}  \epsilon_{22} \\
...
...igma_{11}  \sigma_{22} \\
\sigma_{12}
\end{array}\right\}
\end{displaymath} (3.119)

と表されることが多い。 ここに$E_1$, $E_2$が2方向のYoung率で,$\nu_{12}$, $\nu_{21}$がPoisson比, さらに$\mu_{12}$が板の面内のせん断弾性係数

\begin{displaymath}
\mu_{12}=C_{66}
\end{displaymath} (3.120)

である。したがって,この板の独立な材料定数は五つ( $\nu_{12}E_1\neq
\nu_{21}E_2$の場合) ないし四つ( $\nu_{12}E_1=\nu_{21}E_2$の場合)になる。 あるいは逆関係で

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{c}
\sigma_{11}  \sigma_{22}
\end{ar...
...d{array}\right\}, \quad
\sigma_{12}=2 \mu_{12} \epsilon_{12}
\end{displaymath}

と書くこともできる。

そこで,3次元の弾性テンソルとこの積層板の材料定数との関係を求めておこう。 せん断については式(3.120)で いいので,Young率とPoisson比についてのみ以下で求める。 まず$x_3$方向の応力が零になるような平面応力状態にあるものとすると, 式(3.61)から

\begin{displaymath}
\sigma_{33}=0=C_{31} \epsilon_{11}+
C_{32} \epsilon_{22}+...
...C_{33}} \epsilon_{11}
-\dfrac{C_{32}}{C_{33}} \epsilon_{22}
\end{displaymath}

が成立する。 これを他の二つの直応力と伸びひずみ間の関係式に代入して整理すると

\begin{displaymath}
\sigma_{11}=
\left(C_{11}-\dfrac{C_{13} C_{31}}{C_{33}}\ri...
...ft(C_{22}-\dfrac{C_{23} C_{32}}{C_{33}}\right) \epsilon_{22}
\end{displaymath}

を得る。 この逆関係を求めて式(3.119)と 比較することによって

$\displaystyle E_1$ $\textstyle =$ $\displaystyle \dfrac{D}{C_{33}\left(C_{22} C_{33}-C_{23} C_{32}\right)}, \qua...
...ac{E_2}{\nu_{12}}=
\dfrac{D}{C_{33}\left(C_{33} C_{12}-C_{13} C_{32}\right)},$  
$\displaystyle E_2$ $\textstyle =$ $\displaystyle \dfrac{D}{C_{33}\left(C_{11} C_{33}-C_{13} C_{31}\right)}, \qua...
...ac{E_1}{\nu_{21}}=
\dfrac{D}{C_{33}\left(C_{33} C_{21}-C_{23} C_{31}\right)},$ (3.121)
$\displaystyle D$ $\textstyle \equiv$ $\displaystyle \left(C_{11} C_{33}-C_{13} C_{31}\right) 
\left(C_{22} C_{33}...
...{33} C_{12}-C_{13} C_{32}\right) 
\left(C_{33} C_{21}-C_{23} C_{31}\right)$  

と求められる。

例えば,同じ補強繊維の同じ仕様で$x_1$方向と$x_2$方向に直交して 配置されている場合には,その2方向の材料特性が同じになるため

\begin{displaymath}
C_{11}=C_{22}, \quad C_{13}=C_{23}, \quad C_{31}=C_{32}, \quad
C_{12}=C_{21}, \quad C_{44}=C_{55}
\end{displaymath}

が成立する材料と捉えられる。 このとき式(3.121)から

\begin{displaymath}
E_1=\dfrac{\left(C_{11}-C_{12}\right) 
\left\{C_{33}\left(...
...{12}-C_{13} C_{31}}{C_{11} C_{33}-C_{13} C_{31}}
=\nu_{21}
\end{displaymath}

となり,弾性テンソルは対称になる。 なお当然であるが,平面応力場の面内のコンプライアンスは,3次元のそれ, つまり式(3.70)〜式(3.72)と一致する。

図 3.19: 繊維補強材でできた平板

最後に図-3.19のように,1種類の 繊維が$x_1$方向を長手方向にして並んでいる繊維補強板の場合には, 材料は3次元的には$x_2$方向と$x_3$方向が同じ材料特性を持ち,$x_1$軸を 対称軸とする横等方材料として捉えることができる。 したがって,式(3.63)の添え字($1,2,3$)を($2,3,1$)に 遇置換すればいいので,3次元の材料定数は

\begin{displaymath}
C_{11}, \quad C_{22}=C_{33}, \quad C_{12}=C_{13}, \quad
C_{2...
...{44}=\dfrac12 \left(C_{22}-C_{23}\right), \quad
C_{55}=C_{66}
\end{displaymath}

のうち六つ( $C_{12}\neq C_{21}$の場合)ないし 五つ($C_{12}=C_{21}$の場合)が独立な定数になる。 この場合には式(3.121)から

$\displaystyle E_1$ $\textstyle =$ $\displaystyle \dfrac{\overline{D}}{C_{22}+C_{23}}, \quad
E_2=\dfrac{\overline{D...
..._{12}}{\overline{D}}, \quad
\dfrac{\nu_{21}}{E_1}=\dfrac{C_{21}}{\overline{D}},$  
    $\displaystyle \nu_{12}=
\dfrac{C_{12}\left(C_{22}-C_{23}\right)}{C_{11} C_{22}...
...3}},\quad
\overline{D}\equiv C_{11}\left(C_{22}+C_{23}\right)-2 C_{12} C_{21}$ (3.122)

となる。図に示したような繊維の微視構造上,一般には $C_{12}\neq C_{21}$と 考えるのが素直であるが,このような繊維補強板では(とても不思議なことに エネルギ密度関数が存在して),弾性テンソルは対称$C_{12}=C_{21}$および

\begin{displaymath}
\dfrac{\nu_{12}}{E_1}=\dfrac{\nu_{21}}{E_2}
\end{displaymath}

になる。 多くの文献では対称性($C_{12}=C_{21}$)を最初から仮定している3.24ので注意する。 なお当然であるが,平面応力場の面内のコンプライアンスは,3次元のそれ, つまり式(3.66)〜 式(3.68)と一致する。

  1. 平面ひずみ問題の応力ひずみ関係式(3.109)を誘導せよ。
  2. ひずみを応力で表す関係式(3.111)を誘導せよ。
  3. 平面応力,平面ひずみ問題の応力ひずみ関係を,ひずみで応力を 与える式(平面応力の場合は式(3.117)相当)に変換せよ。
  4. Mohrのひずみ円での主ひずみの関係式を証明せよ。


3.5.3 Airyの応力関数による平面問題の解法

3.5.3.1 応力で表した適合条件

前節で誘導した二つの平面問題は,応力関数を導入することによって 解析的に解くことができる。いずれの問題も形式的には$x_1$-$x_2$面 内の問題として閉じており,その結果を用いて$x_3$方向の非零な成分の 算定が付帯的にできる。この平面内の応力ひずみ関係は,次のようにも 表すことができる。

\begin{displaymath}
\epsilon_{11} = \dfrac{1}{2G} \left\{ \sigma_{11}-
\dfrac{...
...)\right\}, \qquad
\epsilon_{12} = \dfrac{1}{2G} \sigma_{12}
\end{displaymath} (3.123)

ここに

\begin{displaymath}
\kappa=\left\{\begin{array}{lll}
3-4\nu & \mbox{(平面ひず..
...\dfrac{\nu}{E} (\sigma_{11}+\sigma_{22})
\end{array}\right.
\end{displaymath} (3.124)

と定義(Northwestern大学Dundurs教授の`Elasticity'の 講義ノート(1980年頃)より)される。

この関係を式(3.17)の2次元でのひずみの 適合条件式に代入し,つり合い式を考慮すると

\begin{displaymath}
\nabla^2(\sigma_{11}+\sigma_{22})= -\dfrac{4}{\kappa+1}
\left( \D{X_1}{x_1}+\D{X_2}{x_2} \right)
\end{displaymath} (3.125)

となる。これを応力で表した適合条件式と呼ぶ。 さらに,分布外力が何らかのポテンシャル関数$V(x_1,x_2)$で 表現できると仮定し

\begin{displaymath}
X_1=-\D{V}{x_1}, \quad X_2=-\D{V}{x_2}
\end{displaymath}

と置けるものとすれば,上式(3.125)は

\begin{displaymath}
\nabla^2(\sigma_{11}+\sigma_{22})= \dfrac{4}{\kappa+1}
\nabla^2 V
\end{displaymath} (3.126)

となる。


3.5.3.2 Airyの応力関数

さて,もしある関数$U(x_1,x_2)$によって

\begin{displaymath}
\sigma_{11}=\D[2]{U}{x_2}+V, \quad
\sigma_{12}=-\D[2][1][x_2]{U}{x_1}, \quad
\sigma_{22}=\D[2]{U}{x_1}+V
\end{displaymath} (3.127)

のように応力を表すことができたとすると,これは実は 応力のつり合い式(3.21)を自動的に満足する。 したがって,解きたい物理問題に対して$U$を求めることができれば 応力がわかり,式(3.123)からひずみが求められる。 さらに$U$がひずみの適合条件式(3.126)を満足するように なっていれば式(3.6)のひずみ変位関係は積分でき, 任意点の変位も算定できる。 したがって,最終的に唯一の解が求められるためには, 式(3.127)で表される応力がひずみの適合条件式(3.126)を 満足している必要がある。代入して整理すると

\begin{displaymath}
\nabla^4 U=-\dfrac{2(\kappa-1)}{\kappa+1} \nabla^2 V
\end{displaymath} (3.128)

を得る。すなわち,この式(3.128)を満足するような 関数$U$を求めることができれば,固体の平面問題は解けたことになる。 この関数$U$Airyの応力関数 と呼んでいる。 分布外力が無い場合には,上式(3.128)は

\begin{displaymath}
\nabla^4 U=0
\end{displaymath} (3.129)

となる。つまり,応力関数は重調和関数 である。 重調和関数は非常に多く存在し,最も簡単なものは多項式である。

図 3.20: 両端単純支持された板

3.5.3.2.1 両端単純支持板:

ここでは多項式で応力関数が表現できるような例題を 文献[74]から取り上げる。 代入すれば明らかなように

\begin{displaymath}
U=A \left(\dfrac{x_2^5}{30}-\dfrac{x_1^2 x_2^3}{6}\right)
...
...frac{B}{2} x_1^2-\dfrac{C}{2} x_1^2 x_2-\dfrac{D}{6} x_2^3
\end{displaymath}

は上式を満足している。$V=0$とこれとを式(3.127)に 代入すると任意点の応力を算定できる。 もちろん他の多項式も解であるが,ここに 挙げたのは図-3.20にあるような単純支持された 板の応力を与える可能性がある部分だけを抽出したものである。 この問題の境界条件は

\begin{displaymath}
\sigma_{22}(x_2=c)=q, \quad \sigma_{12}(x_2=\pm c)=0,
\quad \sigma_{22}(x_2=-c)=0
\end{displaymath}

および,本当は$x_1=\pm\ell$$\sigma_{11}=0$としたいところだが, それを満足する$U$を求めることは困難なので,少し緩めて

\begin{displaymath}
\int_{-c}^c \sigma_{11}(x_1=\pm\ell) \dint x_2=0, \quad
\int_{-c}^c x_2 \sigma_{11}(x_1=\pm\ell) \dint x_2=0
\end{displaymath} (3.130)

のように平均的に力とモーメントが作用していないものにしておこう。

図 3.21: 両端単純支持された板の応力分布
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(246,130)(168,-5)
...
...0 (string)
\put(180,110){{\xpt\rm$x_2$}}
%
\end{picture}\end{center}\end{figure}

以上の境界条件に$U$を代入すると,各係数を

\begin{displaymath}
A=-\dfrac{3q}{4c^3}, \quad B=-\dfrac{q}{2}, \quad
C=\dfrac{...
...rac{3q}{20c}
\left\{5\left(\dfrac{\ell}{c}\right)^2-2\right\}
\end{displaymath}

と決定できる。これを代入すれば,応力分布が

\begin{manyeqns}
\sigma_{11} &=& \dfrac{3qx_2}{4c^3}\left(x_1^2-\ell^2\right)
-...
...\dfrac{q}{4c^3}\left(x_2+c\right)
\left(x_2^2-cx_2-2c^2\right)
\end{manyeqns}



(3.131)



と求められる。応力成分$\sigma_{11}$の第1項は次章で定式化する 初等梁理論の解であり,第2項は $\slfrac{c}{\ell}$の2乗に比例して 小さくなる。すなわち細長い梁であれば第2項は無視できるほど 小さくなる。 もう一つの直応力$\sigma_{22}$の大きさも同様に,$\sigma_{11}$と 比較したとき $\slfrac{c}{\ell}$の2乗に比例して 小さくなることを示すことができる。 またせん断応力$\sigma_{12}$は放物線分布しており,これも 次章で定式化する理論で求められるものに等しい。

ただし式(3.130)で示したように, 端部$x_1=\pm\ell$の境界条件は厳密なものではなく平均的なものとして 与えた。そのため,結果的には図-3.21にあるような 応力$\sigma_{11}$が左右端には分布している問題が解けたに 過ぎない。もちろん,構造力学としての境界条件として, 軸力と曲げモーメントが零になる条件を式(3.130)は 満足している。また,構造力学の対象となるような細長い棒の 場合には,この端部の分布も相対的に小さいものになる。 さらにSaint-Venantの原理 によって,実際には端部からの距離が離れれば離れるほどこの端部の影響は 小さくなることもわかっている。 式(3.131)の具体的な分布 図は,付録-Bの図-B.4に 有限要素解と共に示した。 最終的に上の応力分布を式(3.123)に代入し, それを式(3.6)に代入して積分すれば, 適切な境界条件のもとで変位成分を決定できる。応力関数$U$が 適合条件を満足するように求められているので,この積分は唯一の 変位成分を与えるはずだ。 結果については文献[74]を参照のこと。

図 3.22: 1個の数学的転位

3.5.3.2.2 転位と亀裂:

もう一つの例として,極座標系におけるAiryの応力関数を取り上げよう。 ここもNorthwestern大学Dundurs教授の`Elasticity'の 講義ノート(1980年頃)から引用した。

\begin{displaymath}
U=\dfrac{2\mu b_2}{\pi(\kappa+1)} r \ln r  \cos\theta, \qquad
r\equiv \sqrt{x_1^2+x_2^2}
\end{displaymath}

という応力関数からは

\begin{displaymath}
\sigma_{11}=\dfrac{2\mu b_2}{\pi(\kappa+1)}
\left\{ -\dfrac...
...1)}
\left\{ -\dfrac{x_2}{r^2}+\dfrac{2x_1^2x_2}{r^4} \right\}
\end{displaymath}

といった応力分布が求められる。 これに対応する変位場には,図-3.22に 示したように,$x_1>0$の部分に$b_2$だけのギャップがある。 これは図-A.1に示した転位の図を反時計回りに90度回転させた 状況を表していることから,上式の応力関数は$r=0$に1個の数学的転位 が存在する場の解を与えると考えられている。 したがって $\bigl\{b\bigr\}\equiv
\left\lfloor 0   b_2   0 \right\rfloor\supersc{t}$は転位のずれ, つまり結晶格子一面分の厚さを表しており,Burgersベクトル と呼ばれている。 ギャップが$x_2$の負方向であることから$g=-b_2$のように負にしてある。 上式の応力のうち,$\sigma_{12}$$\sigma_{22}$$x_2=0$での値を求めると

\begin{displaymath}
\sigma_{12}(x_1,0)=0, \qquad
\sigma_{22}(x_1,0)=\dfrac{2\mu b_2}{\pi(\kappa+1)} \dfrac{1}{x_1}
\end{displaymath}

となる。

図 3.23: 並んだ転位
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(130,223)(300,-5)
...
...bject  ...

そこで,この転位を$x_1$軸上に適切に並べることによって,亀裂を モデル化してみよう。つまり,図-3.23のように, 例えば4個の転位を2個ずつ 逆向きに一列に並べると,ギャップは$x_1$を左から右に

\begin{displaymath}
g=-\sum_{\mbox{{\scriptsize 左から右へ}}} b_2 \eqno{(*)}
\end{displaymath}

と計算していけばいいので,左右端の転位の位置ではギャップは閉じる。 これで,この長さの亀裂をモデル化できたことになるだろう。 そこで,長さが$2L$の亀裂が1個だけ存在する,無限に大きい領域を 一様な応力$T$で引張った場合の問題を,転位を $\left\vert x_1\right\vert\leq L$に 適切に並べることによって解いてみよう。ちなみに,$x_1$軸上の 任意の点$x=\xi$に転位が1個ある場合の,この軸上の 応力$\sigma_{22}$は,上式の原点を移動すればいいから

\begin{displaymath}
\sigma_{22}(x_1,0)=\dfrac{2\mu b_2}{\pi(\kappa+1)} \dfrac{1}{x_1-\xi}
\end{displaymath}

である。

ここで $\left\vert\xi\right\vert\leq L$に並べる転位の分布を$B_2(\xi)$とすると, 上式の$b_2$$B_2(\xi)$で置き換えて重ね合わせればいいから,$x_1$軸上の 応力 $N(x_1)\equiv\sigma_{22}(x_1,0)$

\begin{displaymath}
N(x_1)=T-
\dfrac{2\mu}{\pi(\kappa+1)} \int_{-L}^L
\dfrac{B_2(\xi)}{\xi-x_1}\dint \xi, \qquad T>0
\end{displaymath}

となる。また $-L\leq\xi\leq x_1$の間のギャップは 上の式($*$)を拡張して

\begin{displaymath}
g(x_1)=-\int_{-L}^{x_1} B_2(\xi)\dint\xi
\end{displaymath}

となる。したがって,この $\left\vert x_1\right\vert\leq L$の部分が亀裂である 条件は,そこが自由表面で$\sigma_{12}$$\sigma_{22}$も零になり, ギャップは両端で閉じていることになる。 つまり,$N(x_1)=0$$g(L)=0$がその条件になる。それは

\begin{displaymath}
\int_{-L}^L
\dfrac{B_2(\xi)}{\xi-x_1}\dint \xi=
\dfrac{T\pi...
...ght\vert\leq L\right), \qquad
\int_{-L}^{L} B_2(\xi)\dint\xi=0
\end{displaymath}

であればいいことになる。最初の式は, $\dfrac{1}{\xi-x_1}$という 特異なを持つ, 第1種のCauchyの特異積分方程式 と呼ばれる。 つまり,未知関数$B_2(\xi)$の何らかの積分が,右辺の ある与えられた関数になるように,$B_2(\xi)$を求めなければならない。 そして,二番目の式はその未知関数に対する制約条件である。 積分方程式の解き方については,次のような公式がある。

第1種のCauchyの特異積分方程式に関する公式: 次の積分方程式

\begin{displaymath}
\int_{-1}^1 \dfrac{\phi(\xi)}{\xi-s}\dint\xi=f(s), \qquad
\left\vert s\right\vert<1
\end{displaymath}

の解は

\begin{displaymath}
\phi(s)=-\dfrac{1}{\pi^2} w(s) \int_{-1}^1
\dfrac{f(\xi)}{w(\xi) \left(\xi-s\right)}\dint\xi +C w(s)
\end{displaymath}

となる。ここに$w(s)$は特性関数で$C$は定数である。 $\left\vert s\right\vert=1$で有界な 解が存在するためには,次の適合条件

\begin{displaymath}
\int_{-1}^1 \dfrac{f(\xi)}{w(\xi)}\dint\xi=0
\end{displaymath}

が成立しなければならない。そして特性関数は

\begin{eqnarray*}
\mbox{有界な解の場合} &\qquad & w(s)= \sqrt{1-s^2}, \quad C=0,...
...ert=1$で特異な解の場合} &\qquad &
w(s)= \dfrac{1}{\sqrt{1-s^2}}
\end{eqnarray*}

となる。

これを踏まえて,答(ただし無次元化して$L=1$と 記した場合)を示すと $\left\vert x_1\right\vert\leq 1$

\begin{displaymath}
B_2(x_1)=-\dfrac{T(\kappa+1)}{2\pi\mu} \dfrac{1}{\sqrt{1-x_...
...\int_{-1}^1
\dfrac{1-\xi^2}{(\xi-x_1)\sqrt{1-\xi^2}}\dint \xi
\end{displaymath}

となるので,最終的に $\left\vert x_1\right\vert\leq L$の部分だけに

\begin{displaymath}
B_2(x_1)=\dfrac{T(\kappa+1)}{2\mu} \dfrac{x_1}{\sqrt{L^2-x_1^2}}, \qquad
g(x_1)=\dfrac{T(\kappa+1)}{2\mu} \sqrt{L^2-x_1^2}
\end{displaymath}

と求められる。つまり,転位分布は亀裂両端で無限大の値を持ち, 亀裂は開くと楕円形になることを示している。 このときの$x_1$軸上の応力を求めると, こちらは $\left\vert x_1\right\vert\geq L$

\begin{displaymath}
N(x_1)=T\dfrac{\left\vert x_1\right\vert}{\sqrt{x_1^2-L^2}}, \qquad
\lim_{x_1\to\infty} N(x_1)=T
\end{displaymath}

となる。亀裂から遠く離れる($x_1\to\infty$)と一様な 外力$T$と等しくなる。

図 3.24: 亀裂開口変位・転位分布・応力分布
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(170,166)(232,-5)
...
...ect  ...

一方,この応力の亀裂先端($x_1\to L+r$; $0<r \ll 1$)付近での 値を求めてみると

\begin{displaymath}
\lim_{r\to 0}N(x_1)=
K\subsc{i} \dfrac{1}{\sqrt{2\pi r}}, \quad r\equiv x_1-L,
\qquad K\subsc{i}\equiv T \sqrt{\pi L}
\end{displaymath} (3.132)

となり,亀裂先端からの距離の平方根の特異性を持っていることがわかる。 ここに$K\subsc{i}$は破壊モードIの応力拡大係数 と呼ばれるもので,破壊力学の基本的なパラメータである。 最も基本的な破壊規準は,この応力拡大係数が破壊靱性 と呼ばれる基準値$K\subsc{ic}$に達したときに亀裂が進展するとしている。 読者のほとんどが,積分方程式というものには初めて接したと思うが, 例えば臓器の超音波探査や構造部材の非破壊試験等は, 実は積分方程式を解いている(付録-G参照)のである。

  1. 式(3.125)を誘導せよ。
  2. 式(3.128)を誘導せよ。
  3. 式(3.131)を誘導し,変位成分$u_i$ ($i=1,2$)を求めよ。


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Iwakuma Tetsuo
Mon, 18 Feb 2013 12:48:52 +0900 : Stardate [-28]8120.79