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7.2 薄肉閉断面棒のSaint-Venantのねじり

7.2.1 せん断流とねじりモーメント

図 7.9: 任意の薄肉閉断面のSaint-Venantのねじり
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(366,151)(164,-5)
...
...61.456)(413.75,61.619)
\outlinedshading
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

前節の結論を踏まえ,任意の薄肉断面棒のねじりについて一般的な 定式化を試みる。ただ断面は閉断面 とする。閉断面は,あとで出てくる開断面 とは異なり,肉厚中心線が「端っこ」を持たずに 閉じた曲線になるような断面である。 簡単のために,図-7.9のような$x$軸回りのねじりを考え, 原点が断面のねじり中心であるとする。

薄肉円管の例からも明らかなように,せん断応力の肉厚方向の 分布は一様と近似していい。 したがってせん断応力$\sigma_{sx}$を直接扱うのでは なく,図-7.9に示したように その肉厚方向の代表値$\tau$を定義し, その$(t\times\tau)$が肉厚中心線上に発生して抵抗しているものと 近似解釈する。 肉厚中心線に沿った新しい座標を$s$とし,肉厚中心線上の 任意点$s$に発生しているせん断応力$\tau(x,s)$の作用線までの 原点からの距離を$h(s)$と 表す。肉厚は$s$方向に一様である必要は無く,$t(s)$と一般化しておく。

図 7.10: 微分薄肉要素の力のつり合い
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(266,131)(220,-5)
...
...a_{xx})+\D{(t\sigma_{xx})}{x}\dint x$}}
%
\end{picture}\end{center}
\end{figure}

このように考えて図-7.10の ような $(t\times\dint s\times\dint x)$の微分要素を取り出すと, 応力に$t$を乗じた「一種の合応力」が図示したように それぞれの面に発生していると考えていい。 この$x$方向の力のつり合いは

\begin{displaymath}
\D{(t\sigma_{xx})}{x}+\D{(t\tau)}{s}=0
\end{displaymath}

7.1なる。これを$s$で積分すると

\begin{displaymath}
t(s) \tau(x,s)=
t(s_0) \tau(x,s_0)-\int_{s_0}^s \D{(t\sigma_{xx})}{x}\dint s
\end{displaymath}

と表現できる。ここに$s_0$はある基準となる位置の$s$座標値である。 棒をねじっているだけなので,円柱の場合と同様, 第1次近似としては軸方向の直応力は 発生せず,せん断応力だけで抵抗していると考えてもよさそうだ。 したがって上式右辺第2項の直応力に関する項は第1項に 比べて無視できる。これより

\begin{displaymath}
t(s)\tau(x,s)=t(s_0)\tau(x,s_0)=\mbox{$s$方向にはconst.}
\end{displaymath}

という関係が成り立つ。あるいは新しく

\begin{displaymath}
q(x,s)\equiv t(s) \tau(x,s)
\end{displaymath} (7.12)

で定義されるせん断流 を用いると,上の結論は

\begin{displaymath}
q(x,s)=q_0(x)=\mbox{$s$方向にはconst.}
\end{displaymath} (7.13)

とも書くことができる。つまり,薄肉断面を肉厚幅の水路とみなしたときに, そこを流れる水の流量がせん断流である。そして, 閉じた水路であるから当然総流量は一定で水路幅によらないから, せん断流もある断面内では一定になるのである。

図 7.11: ねじり抵抗を受け持つ面積

このように,断面内の応力がせん断流で表現できるので,Saint-Venantの ねじりモーメントは

\begin{eqnarray*}
T_S(x) & \equiv & \oint\{t(s)\tau(x,s)\} h(s)\dint s \\
& = & q_0(x)  \oint h(s)\dint s
\end{eqnarray*}

と定義していい。せん断流は断面内一定なので,最後の 式では$q_0(x)$を積分の外に出すことができる。 ここで,図-7.11の 左図の網掛けが施された三角形の面積が $\left\{\slfrac12  h(s)\dint s\right\}$で あることを考えると, 上式の一周積分値は肉厚中心線で囲まれた部分の面積の2倍に なっていることがわかる。つまり

\begin{displaymath}
\oint h(s)\dint s = 2 A_c
\end{displaymath}

である。ここに$A_c$は図-7.11の 細い曲線で描かれた肉厚中心線で囲まれた部分の面積である。

したがって,せん断流がわかればSaint-Venantのねじりモーメントは

\begin{displaymath}
T_S(x)=2 q_0(x) A_c = 2  t(s) \tau(x,s) A_c
\end{displaymath} (7.14)

であり,この逆関係としてせん断応力は近似的に

\begin{displaymath}
\sigma_{sx}(x,n,s)\simeq \tau(x,s)=\dfrac{T_S(x)}{2 A_c   t(s)}
\end{displaymath} (7.15)

と表現できることになる。$n$はあとで図-7.20にも 示すような,$x$, $s$軸に直交する座標である。

7.2.2 閉断面のSaint-Venantのねじり定数

一方図-7.11の右図に示したように, 断面肉厚中心線上の任意点$(x,s)$$s$方向の 変位成分を$\eta(x,s)$とし,$x$方向変位を$u(x,s)$とすると, 直交曲線座標系でのこのせん断ひずみ成分は式(3.6)と同様

\begin{displaymath}
\epsilon_{sx}=\dfrac12\left(\D{u}{s}+\D{\eta}{x}\right)
\end{displaymath}

で定義できる。 円柱や円管の場合は$u$$s$方向の微係数を無視したが, 断面形が円形ではなくなったので,以下では考慮することにする。 原点がねじり回転角$\varphi $の中心で,線形理論なので 回転角も小さく $\left\vert\varphi\right\vert\ll 1$と みなせるから,図からも明らかなように,近似的に

\begin{displaymath}
\eta(x,s)=h(s) \varphi(x)
\end{displaymath}

と考えていい。したがって上のひずみの定義に代入して

\begin{displaymath}
\epsilon_{sx}=\dfrac12\left(\D{u}{s}+h(s) \varphi'(x)\right)
\end{displaymath} (7.16)

となる。一方Hookeの法則式(3.42)と 式(7.14) (7.15)から

\begin{displaymath}
2\epsilon_{sx}=\dfrac{1}{G} \sigma_{sx}\simeq\dfrac{q_0(x)}{Gt(s)}=
\dfrac{T_S(x)}{2GA_ct(s)}
\end{displaymath} (7.17)

と関係付けられる。 式(7.16)と式(7.17)から$\epsilon_{sx}$を 消去して整理すると

\begin{displaymath}
\D{u(x,s)}{s}=\dfrac{T_S(x)}{2GA_c t(s)}-h(s)\varphi'(x)
\end{displaymath} (7.18)

がSaint-Venantのねじりモーメント$T_S(x)$と 変位成分$u(x,s)$および$\varphi(x)$との関係になっている。

式(7.18)の両辺をある$s_0$から$s$上で 閉断面内一周積分 $\left(s_{0+}\equiv
s_0+\epsilon\right.$から $s_{0-}\equiv s_0-\epsilon$, $\left. \epsilon \to 0\right)$すると

\begin{eqnarray*}
\oint(\mbox{右辺})\dint s&=&\dfrac{T_S}{2GA_c}\oint\dfrac{\din...
...oint\D{u}{s}\dint s=u(x,s_{0-})-u(x,s_{0+})
=u(x,s_0)-u(x,s_0)=0
\end{eqnarray*}

となる。左辺の演算で最後から二つ目の式は,断面内に 任意に選んだ積分始点$s_0$での$x$方向変位$u$の 食い違い量であり,閉断面である以上このような食い違いが 生じているはずはないから,それは零にならなければならず, 最終的に左辺の積分は零になる。 したがって,左辺右辺の積分演算結果を等値することにより

\begin{displaymath}
0=\dfrac{T_S(x)}{2GA_c}\oint\dfrac{\dint s}{t(s)}-2A_c\varphi'(x)
\end{displaymath}

という関係式を得,これからSaint-Venantのねじりモーメントは

\begin{displaymath}
T_S(x)=G   \dfrac{4 A_c^2}{\displaystyle\oint \dfrac{\dint s}{t(s)}}
  \varphi'(x) \Rightarrow GJ\varphi'(x)
\end{displaymath}

と表現できる。これより任意の閉断面のSaint-Venantのねじり定数

\begin{displaymath}
J\equiv \dfrac{4 A_c^2}{\displaystyle\oint\dfrac{\dint s}{t(s)}}
\end{displaymath} (7.19)

で定義すればいいことになる。

7.2.2.0.1 薄肉円管の場合の例:

では前節の薄肉円管に対して, 上式の成否を確かめてみよう。この場合

\begin{displaymath}
A_c=\pi r_c^2, \quad \oint\dint s=2\pi r_c
\end{displaymath}

なので,上の式(7.19)に代入することによって

\begin{displaymath}
J=\dfrac{4\pi^2r_c^4}{2\pi r_c/t}=2\pi r_c^3 t
\end{displaymath}

となり,式(7.11)の値を得る。

  1. 図-7.12の一番左の図にあるような, 断面の高さが$h$で幅が$b$,肉厚$t$が一定値を 持つ箱形断面のねじり定数を求めよ。

図 7.12: 箱形断面のねじり定数
図 7.13: 2室断面の場合の例
\begin{figure}\begin{center}
\unitlength=.25mm
\begin{picture}(385,70)(180,-5)...
...tring)
\put(232,43){{\xpt\rm$A_1$}}
%
\end{picture}\end{center}%
%\end{figure}

7.2.3 多室断面のねじり定数

箱形断面でできた橋梁部材や船体等では,断面の中がさらに仕切られて 多室になっていることがある。このような場合も同様の考え方で ねじり剛性を算定できる。図-7.13のように, 左右外壁側の断面でのせん断流を

\begin{displaymath}
q_1\equiv t_1\tau_1, \quad q_2\equiv t_2\tau_2
\end{displaymath}

と置くと,点BおよびEでのせん断流の流れの連続性から, 中仕切り壁中のせん断流は

\begin{displaymath}
t_3\tau_3=q_1-q_2
\end{displaymath}

でなければならない。ねじり中心から 作用線までの距離を$h(s)$で定義すると,2室 断面のSaint-Venantのねじりモーメントは,それぞれのせん断流を用いて

\begin{displaymath}
T_S(x)\equiv\int\sub{EFAB}q_1 h\dint s+\int\sub{BCDE}q_2 h\dint s
+ \int\sub{BE} (q_1-q_2)h\dint s
\end{displaymath}

で定義できる。ここでは$\tau_i$の向きを$s$座標と同じ向きに 定義してある。 $\int\sub{BE}(-q_2h)\dint s=\int\sub{EB}(q_2h)\dint s$だから

\begin{displaymath}
T_S(x)=\oint_{\partial A_1}q_1h\dint s
+\oint_{\partial A_2} q_2h\dint s = 2\left(A_1q_1+A_2q_2\right)
\eqno{(*)}
\end{displaymath}

と表現できる。ここに$\partial A_i$$A_i$を 囲む閉曲線に沿った積分経路を示している。

一方,式(7.17)はそれぞれの断面で

\begin{displaymath}
2\epsilon_{sx}=\dfrac{q_i}{Gt_i}
\end{displaymath}

と書くことができるので,これと式(7.16)から 式(7.18)の代わりに

\begin{displaymath}
\D{u}{s}=\dfrac{q_i}{Gt_i}-h\varphi'
\end{displaymath}

とも書くことができる。 これを例えば$\partial A_1$に沿って周積分すると

\begin{displaymath}
0=\int\sub{EFAB} \dfrac{q_1}{Gt_1}\dint s
+\int\sub{BE} \dfrac{q_1-q_2}{Gt_3}\dint s-2A_1\varphi'
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
q_1\oint_{\partial A_1} \dfrac{1}{Gt(s)}\dint s
-q_2\int\sub{BE} \dfrac{1}{Gt(s)}\dint s=2A_1\varphi'
\end{displaymath}

という関係を得る。同様の演算を$\partial A_2$に対しても行うと

\begin{displaymath}
-q_1\int\sub{BE} \dfrac{1}{Gt(s)}\dint s
+q_2\oint_{\partial A_2} \dfrac{1}{Gt(s)}\dint s=2A_2\varphi'
\end{displaymath}

となる。ここで左辺の$q_i$の各係数を

\begin{displaymath}
\xi_i\equiv\oint_{\partial A_i} \dfrac{\dint s}{t(s)}, \quad
\xi_{12}\equiv\int\sub{BE} \dfrac{\dint s}{t(s)}
\end{displaymath}

と定義しておいて,上2式を連立させて$q_i$について解くと

\begin{displaymath}
q_1 =
\dfrac{2(A_1\xi_2+A_2\xi_{12})}{\xi_1\xi_2-\xi_{12}^2...
...dfrac{2(A_1\xi_{12}+A_2\xi_1)}{\xi_1\xi_2-\xi_{12}^2}G\varphi'
\end{displaymath}

となる。これを式($*$)に代入すれば, 最終的にSaint-Venantのねじりモーメントを $\left\{GJ\varphi'(x)\right\}$と 表現することができ,その関係式からねじり定数

\begin{displaymath}
J = 4 \dfrac{A_1 (A_1 \xi_2+A_2 \xi_{12})
+A_2 (A_1 \xi_{12}+A_2 \xi_1)}%
{\xi_1 \xi_2-\xi_{12}^2}
\end{displaymath} (7.20)

と求められる。 多室の一般論についても同様に算定できるが, 具体的な$J$の表現については参考文献等を参照のこと。

  1. 図-7.12の右の二つの図に示した2室箱形 断面の$J$を求め, 演習問題7-22番の 答と比較せよ。

7.2.4 つり合い式と境界条件

任意の薄肉閉断面棒の 支配方程式は円柱・円管のそれと同じで, つり合いは式(7.5)あるいは式(7.6)で, 境界条件も式(7.7)あるいは式(7.8)で 与えられる。 つまり任意の閉断面棒のねじり角$\varphi(x)$に関する 境界値問題の表現は,断面形状に依らずすべて同じになる。 断面形の違いは断面定数$J$の違いとなってのみ現われ,初等梁理論等と 同じような棒理論が定式化された。 ただ厳密には,円柱や円管を除いた他の断面の場合には, 閉断面であっても一般には 次の節以降で議論するそりを考慮しなければならない 場合も多い。 これについては節-7.4で考慮する。


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Iwakuma Tetsuo
Mon, 18 Feb 2013 12:49:24 +0900 : Stardate [-28]8120.79