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E.3 Timoshenko梁理論

E.3.1 つり合い式と境界条件

Timoshenko梁の場合も,構成則以外は美しく明快な理論体系になり, そこでも式(E.19)の物理的な伸びひずみ$e$を 用いることができる。式(E.10)のひずみ成分を 式(E.6)の仮想仕事式に代入して変分をとると, その内力仮想仕事項は

\begin{displaymath}
\int_V \left( S_{xx}  \delta E_{xx} +
2 S_{xz}  \delta E...
...} S_{xx}  \delta e +
S_{xz}  \delta \gamma \right) \dint V
\end{displaymath}

と表すことができる。

断面形不変の仮定から,断面方向の基底ベクトル$\fat{G}_z$そのものは 単位ベクトルのままなので,式(E.7)から 明らかなように,$z$方向のせん断応力$S_{xz}$は物理成分そのものである。 一方,式(E.22)で説明したように,$x$方向の 直応力$S_{xx}$$\sqrt{g}$だけの調整が必要になる。よって

\begin{displaymath}
\sigma\equiv \sqrt{g} S_{xx},\quad
\tau\equiv S_{xz}
\end{displaymath} (E.33)

でそれぞれの物理成分を定義することができる。これを用いると,上の 内力仮想仕事項は

\begin{displaymath}
\int_V \left( \sigma  \delta e +
\tau  \delta \gamma \right) \dint V
\end{displaymath} (E.34)

のように簡明な表現になる。 式(E.11a)等を考慮すれば伸びの物理成分の変分は

\begin{displaymath}
\delta e=\cos\Gamma \delta\left(\epsilon+z \kappa\right)
+\sin\Gamma \delta\gamma
\end{displaymath}

となるから,上式(E.35)に代入して内力仮想仕事項が

\begin{displaymath}
\int_x \left( N  \delta \epsilon + M  \delta\kappa+
V  \delta \gamma \right) \dint x
\end{displaymath} (E.35)

となる。ただし,三つの基本的な断面力を

\begin{twoeqns}
\EQab
N\equiv\int_A \sigma\cos\Gamma\dint A,\quad
\EQab
M\equiv\...
...quad
\EQab
V\equiv\int_A \left(\tau+\sigma\sin\Gamma\right)\dint A
\end{twoeqns}

(E.36)



で定義した。

式(E.36)は,軸力が軸線の伸びと,曲げモーメントが 軸線の曲率と,せん断力がせん断変形と仮想仕事になっており, 非常にわかり易い形をしている。 ただ式(E.37)のように,断面力の定義が一見複雑になっている。 しかしそれは,せん断変形の影響で変形後の基底ベクトルが断面に 垂直にはなっておらず,したがって直応力$\sigma$も断面に 直交した方向を向いていないから複雑に見えるだけなのである。 例えば軸力は直応力の断面法線方向成分 $\sigma\cos\Gamma$だけで定義されている。 曲げモーメントも同様である。せん断力はせん断応力$\tau$だけでは 定義されず,直応力$\sigma$の断面内方向成分 $\sigma\sin\Gamma$も 足された形で定義されていることに注意する必要がある。 そう考えると逆に,この式(E.37)の断面力の定義は 非常に論理的であることがわかる。

式(E.9) (E.11)を考慮しながら, 各変形成分の変分をとると

\begin{displaymath}
\delta\epsilon = \cos\vartheta \delta u'-\sin\vartheta \de...
...artheta \delta w'
+\sqrt{g_0} \cos\Gamma_0 \delta\vartheta
\end{displaymath}

という関係がある。また外力仮想仕事については,Bernoulli-Euler梁の 式(E.26)と同様に考えればいい。 したがって,式(E.36)と以上の関係を用いて変分を 実行しEuler方程式を導くと,つり合い式が

\begin{manyeqns}
&& \left(N\cos\vartheta+V\sin\vartheta\right)'+p=0 \\
&& \left...
...\
&& M'-\sqrt{g_0} \left(V\cos\Gamma_0-N\sin\Gamma_0\right)=0
\end{manyeqns}



(E.37)



と求められる。あるいは式(E.11)の関係を用いると, モーメントのつり合い式(E.38c)は

\begin{displaymath}
M'-\left(1+\epsilon\right) V+\gamma N=0
\end{displaymath} (E.38)

とも表すことができる。また境界条件は

\begin{manyeqns}
u=\mbox{与えられる}  &\mbox{あるいは}&\quad
n_i \left(N\cos...
...\vartheta=\mbox{与えられる}  &\mbox{あるいは}&\quad
n_i M=C_i
\end{manyeqns}



(E.39)



となる。ここに$n_i$は式(4.24)で定義した 記号である。

E.3.2 構成方程式

構成関係については 式(E.35)の内力仮想仕事項の組を見る限り, 直応力$\sigma$と物理的伸び$e$とを,せん断応力$\tau$と せん断変形$\gamma$とを何らかの関係で結び付ければ, それが一つの明快な構成方程式の候補である。つまり

\begin{displaymath}
\sigma=E e,\quad \tau=G \gamma
\end{displaymath} (E.40)

と考えるのが素直であろう。ここに$E$$G$はそれぞれ何らかの 弾性係数である。しかし,式(E.11)の関係と 式(E.37)の断面力の定義とから明らかなように, このままでは断面力と変位成分との関係は複雑な非線形関係になり, 例えばBernoulli-Euler梁の式(E.30)のような 明快な関係を得ることはできない。

そこで何らかの近似をせざるを得ない。 ここでは弾性範囲に限定していることを考えると,ひずみ そのものはかなり微小なものとして取り扱っていいだろう。 そう考えると,式(E.14)より

\begin{displaymath}
\cos\Gamma\simeq 1,\quad \sin\Gamma\simeq \dfrac{\gamma}{1+\epsilon}
\end{displaymath} (E.41)

と置いてよさそうだ。式(E.41) (E.42)を 断面力の定義式(E.37)に代入して微小ひずみの 仮定を用いて近似すると,その「第1次近似」として

\begin{twoeqns}
\EQab
N=EA \epsilon,\quad
\EQab
M=EI \kappa,\quad
\EQab
V=Gk\subsc{t}A \gamma+N\dfrac{\gamma}{1+\epsilon}
\end{twoeqns}

(E.42)



と置いていい。$k\subsc{t}$は節-4.6.2でも 用いた補正係数である。 この式(E.43c)の第2項は,式(E.37c)に ある直応力のせん断力への寄与分である。

ただ,軸力は式(E.43a)のように伸びひずみに比例した 断面力なので,この式(E.43c)でその第2項は ひずみの2次項になり,第1項に比べて無視していいようにも 思われる。つまり

\begin{displaymath}
V=Gk\subsc{t}A \gamma
\end{displaymath} (E.43)

というのも,微小ひずみの範囲の1理論になり得る。 これは微小変位理論での構成則と形式的に一致している。 こちらを「第2次近似理論」と称しておく。 この理論は「つるまきバネ」のようなものの理論と捉える場合もあるようだ。

E.3.3 近似支配方程式

以上をまとめると,「第1次近似」の範囲の基礎的な支配方程式は

\begin{shorteqns}
u'& = & (1+\epsilon) \cos\vartheta+\gamma \sin\vartheta-1, \...
...d
\EQsep
\gamma=\dfrac{V}{Gk\subsc{t}A+\dfrac{N}{1+\epsilon}}
\end{shorteqns}



(E.44)



であり,つり合い式が

\begin{manyeqns}
&& \left(N\cos\vartheta+V\sin\vartheta\right)'+p=0 \\
&& \le...
...eta\right)'+q=0 \\
&& M'-\left(1+\epsilon\right) V+\gamma N=0
\end{manyeqns}



(E.45)



となる。微小ひずみの近似をしておきながら,$\epsilon$を1に 対して無視していない所が数箇所あるが,$(1+\epsilon)$の部分は そのすべてを残してある。運動学的な記述において$\epsilon$を1に対して 無視してしまうと伸びを無視したことになるので, 式(E.45a) (E.45b)では無視できないが, 式(E.45e)と式(E.46c)の$\epsilon$は 無視できる。それはそれぞれ

\begin{displaymath}
\gamma=\dfrac{V}{\mbox{}  Gk\subsc{t}A+N  }, \quad
M'-V+\gamma N=0
\end{displaymath} (E.46)

となる。こちらをこの節では「微小伸び近似」と呼ぶことにする。


E.3.4 座屈荷重

片持ちTimoshenko梁の座屈を例としよう。その場合には,座屈直前の解は

\begin{displaymath}
u=-\dfrac{P}{EA} x, \quad w=0, \quad \vartheta=0, \quad
\e...
...dfrac{P}{EA}, \quad \gamma=0, \quad
N=-P, \quad V=0, \quad M=0
\end{displaymath}

である。Bernoulli-Euler梁の場合と同様,この解からの 摂動を与えて,$\Delta$のついた摂動量について すべての支配方程式を線形化する。 その摂動量に対する固有値問題を解けば,座屈荷重$P\sub{cr}$が, 「第1次近似理論」では

\begin{displaymath}
\dfrac{\pi^2}{4}=
\dfrac{\zeta \left(1-\beta^2 \zeta\right)^2}%
{1-\left(\beta^2+\alpha\subsc{t}\right) \zeta}
\end{displaymath} (E.47)

のような3次方程式の解(岩熊の座屈公式 )になる。ここに

\begin{displaymath}
\zeta\equiv\dfrac{P\sub{cr} \ell^2}{EI},\quad
\beta\equiv \dfrac{1}{\lambda}
\end{displaymath} (E.48)

であり,$\beta $厚さ(太さ)パラメータ で細長比$\lambda$の逆数。 $\alpha\subsc{t}$は式(4.85a)で 定義したせん断変形に関するパラメータである。 さらに「微小伸び近似」の場合は

\begin{displaymath}
\zeta=\dfrac{\pi^2/4}{1+\alpha\subsc{t} \pi^2/4}
\end{displaymath} (E.49)

であり,これはいわゆるEngesserの公式 に一致する。

これに対し,式(E.43c)のせん断力と変形の関係に 軸力の寄与分を無視した理論,つまり式(E.44)を 用いた「第2次近似理論」の枠組の中で柱の座屈荷重を求めると

\begin{displaymath}
\zeta=\dfrac{1-\sqrt{1-\pi^2\left(\beta^2-\alpha\subsc{t}\right)}}%
{2 \left(\beta^2-\alpha\subsc{t}\right)}
\end{displaymath} (E.50)

となる。 さらに上述の「微小伸び近似」をこの「第2次近似」に加えると,座屈荷重は

\begin{displaymath}
\zeta=\dfrac{\sqrt{1+\alpha\subsc{t} \pi^2}-1}{2 \alpha\subsc{t}}
\end{displaymath} (E.51)

となり,改訂Engesser公式 になる。 つまり,式(E.37c)のせん断力の定義中で直応力の 寄与分を無視したのが改訂公式に対応しており,棒理論としては 整合性に欠けている。しかし図-6.49にも示したように, 二つの公式の差は非常に短い梁に対してせいぜい25%程度である。 二つのEngesser公式と式(E.51)は 文献[73]にも書かれているが, 式(E.48)の伸びを考慮した第1次近似理論の座屈荷重は 著者オリジナル[37]である。


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Iwakuma Tetsuo
Mon, 18 Feb 2013 12:50:55 +0900 : Stardate [-28]8120.80