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E.1 微小でない変位と変形

E.1.1 ひずみの定義

この章タイトルにある有限変位というのは,微小ではない変位の ことを指す。章-3では微小変位の場合のひずみや 応力を定義したが,ここでは有限変位の範囲のひずみの定義をする。 詳細は章-12を参照のこと。さて 変位前の物体中の任意点の位置ベクトルは 式(3.1)で表すことができるから,任意の微分要素ベクトルは

\begin{displaymath}
\dint \fat{p}^0=\sum_i \dint x_i \fat{e}_i
\end{displaymath} (E.1)

と表現できる。ただし,ここでは直角座標での説明をするため, テンソルの共変成分 ・反変成分 の区別をせず,すべて下付きの指標で成分を表すことにする。 極座標等の一般的な厳密な表現については 例えば文献[24]を参照のこと。 一方,式(3.3)を考慮すると, 変位後の位置ベクトルの式(3.2)から同様に

\begin{displaymath}
\dint \fat{p} = \sum_j \dint p_j \fat{e}_j
= \sum_i\sum_j ...
...i}\right)\dint x_i \fat{e}_j
= \sum_i \dint x_i \fat{G}_i
\end{displaymath} (E.2)

と書くことができる。ここに$\fat{G}_i$

\begin{displaymath}
\fat{G}_i\equiv \sum_j \left(\delta_{ji}+\D{u_j}{x_i}\right) \fat{e}_j
\index{=gi@$\fat{G}_i$}%
\end{displaymath} (E.3)

で定義した変形後の基底ベクトルである。 これは,変形前に空間座標系基底ベクトル$\fat{e}_i$と一致するように 定義した上で物体各点に糊付けしたもので, 物体と一緒に変位して変形するベクトルである。 したがって元の基底ベクトル$\fat{e}_i$が単位の直交ベクトルで 定義されたとしても,$\fat{G}_i$の方は単位でもなく互いに直交も しないベクトルの組になっている。

ひずみは変形前後の微分要素の長さの差として式(3.10)で 定義されたから,上式をこれに代入して整理すると

\begin{displaymath}
\dint s^2-\dint s_0^2 = \sum_i\sum_j\left(\fat{G}_i \fat{G}...
..._i\dint x_j
\equiv \sum_i\sum_j 2  E_{ij} \dint x_i\dint x_j
\end{displaymath}

のようにしてひずみ成分$E_{ij}$を定義できそうだ。 式(3.10)と同じ表現であるが,式(3.10)の 場合はその線形部分だけが成立していた。 つまり,有限変位におけるひずみテンソル成分としては厳密に

\begin{displaymath}
E_{ij}\equiv \dfrac12\left( \fat{G}_i   \fat{G}_j - \delta_{ij} \right)
\end{displaymath} (E.4)

で定義する。このひずみテンソル$\fat{E}$Greenのひずみ テンソルと呼ぶ。 式(E.2)の$\fat{G}_i$の定義を式(E.4)右辺に 代入して整理すると,各成分は

\begin{displaymath}
E_{ij}\equiv \dfrac12 \left(
\D{u_i}{x_j}+\D{u_j}{x_i}+\sum_k \D{u_k}{x_i} \D{u_k}{x_j} \right)
\end{displaymath} (E.5)

と定義できる。右辺括弧内第3項が式(3.6)で定義された 微小変位におけるひずみ成分には無かった非線形項である。

物理的な意味について,代表的な成分と微小変位の場合の成分とを 比較してみよう。まず$E_{11}$

\begin{displaymath}
E_{11}=\dfrac12\left( \left\vert\fat{G}_1\right\vert^2-1\ri...
...\left(1+\epsilon_{11}\right)^2-1\right\}
\simeq \epsilon_{11}
\end{displaymath}

となるから,ひずみ自体が微小である限り,式(3.4)の 伸びひずみと近似的に一致する。 一方$E_{12}$

\begin{displaymath}
E_{12}=\dfrac12\left\vert\fat{G}_1\right\vert\left\vert\fat{...
...\left(\epsilon_{12}+\epsilon_{21}\right)
\simeq \epsilon_{12}
\end{displaymath}

となる。これもひずみ自体が微小である限り,式(3.5)の せん断ひずみと近似的に一致する。

E.1.2 仮想仕事の原理と応力

前節で定義したGreenのひずみテンソル成分を用いた仮想仕事式は, その誘導は省略するが,式(B.1)と形式的には同じく

\begin{displaymath}
\int_V \sum_{i=1}^3 \sum_{j=1}^3 S_{ji}  \delta E_{ij} \din...
... V
-\int_{S} \sum_{i=1}^3 F_i \delta \bar{u}_i \dint S = 0
\end{displaymath} (E.6)

表現される。 ただし$S_{ji}$第2 Piola-Kirchhoff応力 テンソル成分である。 物理的には,変位前に単位面積を持ち変位後に$\fat{G}_j$方向を 法線ベクトルとする面積要素当たりの, その物体点の変位後の基底ベクトル$\fat{G}_i$方向の力成分を表している。 したがって,変形後の基底ベクトルが必ずしも単位ではないことから, それ自体は物理的な応力の大きさと次元とを持っておらず

\begin{displaymath}
S_{ji}\mbox{ の物理成分} = S_{ji}\times \left\vert\fat{G}_i\right\vert
\end{displaymath} (E.7)

という調整が必要であることに注意する。 以下簡単のために,添え字の$(1,2,3)$の組を$(x,y,z)$で記す。

E.1.3 運動場の仮定

図 E.1: Timoshenko梁の変形状態

最初は少し一般性を持たせるために,まず,せん断変形の影響を 含んだTimoshenko梁モデル[37,41]に対して 運動場を誘導する。付録-Dで提示した運動場 に対する仮定を図-E.1に示した。 式(4.3)のようにはsineとcosineを 近似せず,式(D.2)をきちんと書くと

$\displaystyle u_x(x,z)$ $\textstyle =$ $\displaystyle u(x)+z \sin\vartheta(x)$ (E.8)
$\displaystyle u_z(x,z)$ $\textstyle =$ $\displaystyle w(x)+z \left\{\cos\vartheta(x)-1\right\}$  

となる。$\vartheta(x)$は断面の回転角である。 軸線は断面の図心を通るものとするが,変形前に軸線と 平行していた棒の線素は,変形後には$\fat{G}_x$方向を向く。したがって 線素の向きは$x$軸 と $\Lambda(x,z)\equiv\left\{\vartheta(x)-\Gamma(x,z)\right\}$の 角度をなす。$\Gamma$は断面のせん断変形による角度変化である。 このことから,軸線の変位と傾きの幾何学的関係は

\begin{displaymath}
\tan\Lambda_0(x) =
\tan\left\{\vartheta(x)-\Gamma_0(x)\right\}
= -\dfrac{w'(x)}{1+u'(x)}
\end{displaymath} (E.9)

となる。ここにプライムは$x$に関する微分を表し, 下添え字に0が付いた$\Lambda_0(x)$, $\Gamma_0(x)$はそれぞれ, 基底ベクトルの回転角$\Lambda(x,z)$および$\Gamma(x,z)$の 軸線上($z=0$)での値を表す。

式(E.9)を考慮しながら式(E.8)を ひずみの定義式(E.5)に代入して整理すると

\begin{twoeqns}
\EQab
E_{xx}=\dfrac12 \left(g-1\right), \quad
\EQab
2  E_{xz}=\sqrt{g} \sin\Gamma=\sqrt{g_0} \sin\Gamma_0=\gamma
\end{twoeqns}

(E.10)



と表すことができる。ここに $g\equiv\left\vert\fat{G}_x\right\vert^2$

\begin{shorteqns}
g & = & (1+\epsilon+z \kappa)^2+\gamma^2, \quad
\EQsep
g_...
...\equiv \vartheta'
\index{=gzero@$g_0$}%
\index{=kappa@$\kappa$}%
\end{shorteqns}



(E.11)



と定義した。 式(E.9)と式(E.11)の定義を用いると, 変位勾配は

\begin{displaymath}
u'=(1+\epsilon) \cos\vartheta+\gamma \sin\vartheta-1, \quad
w'= -(1+\epsilon) \sin\vartheta+\gamma \cos\vartheta
\end{displaymath} (E.12)

という関係にあることを示すことができる。 変形前に軸線と平行だった任意の線素の向きは, 断面任意点での変形後の基底ベクトルの回転角と変形の関係式

\begin{displaymath}
\cos\Lambda=\dfrac{1+\epsilon+z\kappa \cos\vartheta}{\sqrt{...
...ad
\sin\Lambda=\dfrac{\gamma+z\kappa \sin\vartheta}{\sqrt{g}}
\end{displaymath} (E.13)

で与えられる。あるいは,せん断変形部分だけについては

\begin{displaymath}
\cos\Gamma=\dfrac{1+\epsilon+z \kappa}{\sqrt{g}},\quad
\sin\Gamma=\dfrac{\gamma}{\sqrt{g}}
\end{displaymath} (E.14)

という関係がある。


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Iwakuma Tetsuo
Mon, 18 Feb 2013 12:50:55 +0900 : Stardate [-28]8120.80