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この章は,元々は付録-Gの逆問題を定式化して, 非破壊評価をするための超音波探査法の講義のために北原先生が 起こしたものである。しかし北原先生も, この章の範囲と逆問題の定式化くらいまでしかカバーできていなかった。 それを引き継いだ第1著者のわかる範囲でまとめたのがこの章である。 地震応答問題等における平面波と表面波の初歩的な力学に限定されている。 なおここでは,アメリカ合州国Illinois州Evanston, Northwestern大学Achenbach教授の`Wave Propagation'の講義ノート(1980年頃)と 文献[1]11.1を 参考にした。
図-11.1に示したような,
一様断面の棒の中を軸方向に伝わる縦波の挙動を調べる。軸を
棒の長手方向にとり,断面積のある任意断面の方向の
変位を,直応力11.2をとすると,微分要素の
運動方程式は
となる。ここでは棒の単位長さ当りの質量である。また,
軸の伸びひずみは式(3.4)から
であり,
式(3.116a)の1次元のHookeの法則が成立して
を満足する材料であるとする。さらに密度をとしてを
考慮すれば,上式の運動方程式は
と定義した。鋼ではGN/m (kN/mm)とkg/mからkm/s程度になる。
場所と時間の問題になっているので,上の運動方程式に唯一の解が 存在するためには,最低限,適切な初期条件と境界条件が必要になる。 初期条件は時刻に,任意の場所におけるとを与えればいい。 これに対し境界条件は,棒の両端のそのものか, すなわち式(11.1)を考慮すると,かの いずれかが適切な組み合わせで規定されていないといけない。
式(11.2)を解いてみよう。まず
という変数変換をし,
と置き換えると,
偏微分の連鎖律から
という関係があるので,式(11.2)は
のような形の波動方程式であることがわかる。
この式(11.4)を2回積分すれば,例えば
となるので,元の関数形に戻すと
となる。2種類の解の重ね合わせになっていて,これをd'Alembertの解 と呼んでいる。
では
という関数の物理的な意味を考察しよう。
例えばある時刻にある場所で,この関数がという
値を持っていたとする。それから時間が
経った
のときの,
という場所の
この関数の値は
となる。つまり,, における「物理状態」がにで 観察されたことになる。したがって, という関数は 「の正の方向にで伝播する」物理現象を表している。 逆に は 「の負の方向にで伝播する」物理現象を表す。
式(11.1)のHookeの法則を用いれば,応力も
同様の関数形で求められて
と表されることになる。ここで,プライムは
関数のargument(括弧の中の引数のこと;独立変数?)で
微分することを示しており
である。以下,この表現を用いるが,偏微分の連鎖律に十分気を付けること。
さて実際に問題を解く場合には,速度ではなく
と表現できる。この表現を用いると次のように扱うことができる。
と書くことができる。ここで
を用いていることに注意する。
つまり,応力と速度は同じargumentの関数で
表すことができることになり
と置けばいい。
と置けばいい。
以下,簡単のために上に付したドットで時間微分を表し 速度をと記すことにすると,上で求めた関係式から
(11.9)
という関係が成立する。 これは次の節で便利に使うことになる。
一例として,図-11.3のような長さの棒の
自由端を外力でたたいたときの縦波の伝播を求めてみる。
初期条件は
である。
境界条件は,左端に作用しているのが圧縮力であることに注意して,
右端が固定されていることから
と与えられる。しかし,式(11.9)のように 速度と応力が同じ関数で表現できることから, 境界条件も応力と変位ではなく,速度も加えて表した方が便利だろう。 つまり
(11.10)
となるものとしよう。
まず最初の波がに到達する前,つまり
の間を検討しよう。
このときは,の正方向に進む波しか存在しないため,
任意点の応力の関数形は
である11.3はずだ。
しかしにおける境界条件式(11.10a)から
を満足しなければならない。したがって,任意点の応力は
と求められる。
式()のように,との関数のargument同士が等しいという条件から,
この結論が得られていることを理解して欲しい。
端部をたたいたために,圧縮(負の応力)波が発生している。
そしてこれは進行波なので,式(11.9a)から速度が
となる。伝播する応力波を図-11.4に示した。
次に,最初の波がに到達して反射したあと,
つまり
の間を検討しよう。
この状態は,進行波(入射する波なので入射波
と呼ぶ)と後退波(反射波
)が重ね合わさったものになる。つまり入射波は
であり,応力の反射波が後退波なので
とすると
という表現になるはずである。添え字のIは入射波を,Rは反射波を指す。
これを重ね合わせた速度がにおける
速度の境界条件式(11.10c)を満足しなければならないから
が成立する。右の式で
と変数変換するとは
という関数であることがわかる。
したがって,応力の反射波は
となるので,この二つの波を重ね合わせて
と表現できる。つまり第2項は,の時間帯に,を 始点としての負方向に伝わる波を表している。図-11.5の 左図にその様子を示した。
さらに,最初の波先が反射して元のまで戻ったあと, つまり の間を検討しよう。 この場合は左端における反射波 が進行波として さらに加わるので
と置いていい。この重ね合わせた応力全体が,
境界条件式(11.10a)のにおける条件
を満足しなければならないので,結局
とが求められる。つまり
が次の反射波になる。
ここでは応力の符号が変わって,引張りに転じたことに注意しなければならない。
したがって,以上の三つの波を重ね合わせた応力は
となる。が短時間のみの作用の場合の例を図-11.5の 右図に示した。
を与えたとき, の間の応力を求めよ。 ただしとする。 もし,この棒の材料の引張り強度が で 圧縮強度がのとき,この棒はいつどこで最初に破断する可能性が高いか 示せ。文献[1]の問題から。
としてもいいHeaviside関数(階段関数) で,図-10.16に示した。 この力による波がの球に到達したあとの,応力の反射波と透過波を求めよ。 なお上式のは式(4.55)で定義したDiracの デルタ関数で,いずれも正しくは関数ではなく超関数であるから, 最後の式の等号 は 特殊な等号11.4である。文献[1]の問題から。