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D.2 曲げ問題の仮想仕事式と剛性方程式

D.2.1 仮想仕事式

つり合い式の基本的な弱形式は,式(D.7)のつり合い式から

\begin{displaymath}
0=-\int_0^\ell \bigl\{ \delta w   (V'+q) + \delta\vartheta 
(M'-V) \bigr\} \dint x
\end{displaymath}

と書くことができるから,部分積分をして境界条件式(D.8)を代入すると

\begin{displaymath}
= \int_0^\ell
\bigl\{ V \delta(\vartheta+w')+M \delta\var...
...elta\vartheta_1+
S_2 \delta w_2+C_2 \delta\vartheta_2\bigr]
\end{displaymath}

となる。これに式(D.3)を 考慮して式(D.5)を代入すると,最終的な仮想仕事式

\begin{displaymath}
\int_0^\ell \bigl\{Gk\subsc{t}A\gamma \delta\gamma
+EI\va...
...\vartheta_1+
S_2 \delta w_2+C_2 \delta\vartheta_2\bigr]=0
\end{displaymath} (D.12)

となる。内力仮想仕事項は式(D.3)を考慮すると

\begin{displaymath}
\int_0^\ell \bigl\{Gk\subsc{t}A\gamma \delta\gamma
+EI \...
...mma'\right) 
\delta\left(-w''+\gamma'\right)\bigr\}\dint x
\end{displaymath} (D.13)

とも表すことができる。

D.2.2 剛性方程式

D.2.2.1 かなり低次な要素

式(D.12)を見る限り$\gamma$は要素内一定,$\vartheta$は1次 多項式でよさそうだ。 したがって式(D.3)を考慮すれば$w$には2次多項式で いいことになる。 これで四つの未定係数で$\gamma$, $w$を表すことができ,節点での 連続条件を満足すべき四つの$w_i$, $\vartheta_i$を係数とする 変位関数が仮定できる。 しかし式(D.13)を見ると, これでは被積分関数第2項の$\gamma$の微係数が落ちてしまう。 だからといって$\gamma$に1次の多項式を仮定すると 未定係数の数が一つ増え, 後述の高次要素と同じような煩雑さを伴う。 ただこの第2項は曲げの項であり,$\gamma$の貢献は 主に第1項であろうから, 思い切ってこの最も簡単な変位関数を採用して試してみよう。 つまり

\begin{displaymath}
\gamma(x) = \frac{w_2-w_1}{\ell}+\frac{\vartheta_1+\vartheta...
...a_1
+\frac{x}{\ell} w_2+\frac{x(\ell-x)}{2\ell} \vartheta_2
\end{displaymath}

と置く。これを式(D.13)に代入して剛性行列 を求めると

\begin{displaymath}
\left(\begin{array}{cccc}
\dfrac{Gk\subsc{t}A}{\ell} & -\df...
...I}{\ell}+\dfrac{Gk\subsc{t}A\ell}{4}\right)
\end{array}\right)
\end{displaymath} (D.14)

となる。

ところでTimoshenko梁理論はBernoulli-Euler梁の拡張理論で あり,$G\to\infty$の極限で各基礎式は初等梁理論のそれに整合する はずである。しかし式(D.14)の剛性 行列は,$G\to\infty$の極限で式(5.24)にはならない。 しかも式(D.14)を用いた有限要素解析による 数値解は,要素数を非常に多く用いなければならない等, 厳密解への収束が非常に遅い[38]こともわかっている。

D.2.2.2 高次要素--適正な要素

たわみ$w$で表したつり合い式(D.9)を見ると 明らかなように,最も重要な項は初等梁理論と同様,たわみ についての4階の微係数であった。したがって,$w$に対しては3次の 多項式を用いるのが望ましいことは明らかであったが,前節では 故意に簡単な要素を誘導してみた。 そこでここでは,$\gamma$については定数として

\begin{manyeqns}
\gamma(x)&=&\gamma_0 \\
w(x) &=& w_1 \psi_1(x)-w' \psi_2(x...
...si_3(x)+\vartheta_2 \psi_4(x)
+\gamma_0 \psi_5(x)\qquad\mbox{}
\end{manyeqns}



と置いてみよう。ここに$\psi_n$は式(5.21)で定義した 多項式であり,新たに

\begin{displaymath}
\psi_5(x)\equiv -\psi_2(x)-\psi_4(x)=
x-3 \dfrac{x^2}{\ell}+2 \dfrac{x^3}{\ell^2}
\end{displaymath}

と定義した。

ここでも$\gamma$を定数と置いているから,式(D.13)の 被積分関数第2項の$\gamma$の微係数が落ちてしまう。しかし, 式(D.15)の$w$の方の 変位関数表現に$\gamma_0$の項があることから, 少なからずせん断変形の影響がこの第2項にも及ぶことが期待できる。 また$\gamma$を1次多項式にしても,実は求められる剛性方程式が同じに なることは,ちょっと面倒な演算で示すことができる。

式(D.15)を式(D.12)に代入して「要素」剛性方程式を 求めると

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{c} S_1\ C_1\ S_2\ C_2\ 0 \end{array...
...\ w_2\ \vartheta_2\ \gamma_0
\end{array}\right\}
\eqno{(*)}
\end{displaymath}

となる。 なお簡単のためにこの章では,括弧無しの太字で行列を表している。 ここで$\fat{k}_b$は式(5.22a) (5.24)で 定義された初等梁の剛性行列であり,$q_i$ ($i$=1〜4)は 式(5.22b)で定義された等価節点外力である。$h_5$$\fat{h}$の 具体的な表現は省略するが

$\displaystyle \fat{h}$ $\textstyle \equiv$ $\displaystyle \lfloor h_1 \quad h_2 \quad h_3 \quad h_4 \rfloor\supersc{t},
\qquad q_5 \equiv \int_0^\ell q \psi_5\dint x,$ (D.15)
$\displaystyle h_n$ $\textstyle \equiv$ $\displaystyle EI\int_0^\ell \psi_n'' \psi_5'' \dint x,
\quad (n=1,2,3,4), \quad
h_5 \equiv Gk\subsc{t}A\ell + \int_0^\ell EI (\psi_5'')^2\dint x$  

と定義した。なお簡単のためにこの章では括弧無しの太字で行列を 表している。剛性方程式($*$)の第5行目の式は,境界条件から判断して 左辺の外力に相当する部分が零になっており,これは要素剛性方程式の レベルでの余剰な自由度$\gamma_0$に対する付帯条件と 考えなければならない。つまり式(D.8)の境界条件 から判断して$\gamma$は要素間で連続になる必要が無いから, 式($*$)の形で$\gamma_0$を剛性方程式に残しておく必要はなくなる。 したがって,式($*$)第5行目から$\gamma_0$を計算してしまい, それを残りの行に代入して剛性行列の縮約を行う。第5行目の式は

\begin{displaymath}
\gamma_0=\dfrac{q_5-\fat{h}\supersc{t} \fat{v}}{h_5}
\eqno{(**)}
\end{displaymath}

となる。便宜上

\begin{displaymath}
\fat{v} \equiv \lfloor w_1 \quad \vartheta_1 \quad
w_2 \quad \vartheta_2 \rfloor\supersc{t}
\end{displaymath}

と置いた。式($**$)を式($*$)の上4行右辺に代入すると

\begin{eqnarray*}
\left\{\begin{array}{c} S_1\ C_1\ S_2\ C_2 \end{array}\righ...
...} \fat{v}+\fat{h} \dfrac{q_5-\fat{h}\supersc{t} \fat{v}}{h_5}
\end{eqnarray*}

となる。したがって最終的な剛性方程式

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{c} S_1\ C_1\ S_2\ C_2 \end{array}\ri...
...{c}
w_1\ \vartheta_1\ w_2\ \vartheta_2
\end{array}\right\}
\end{displaymath} (D.16)

と表すことができる。 ここに

\begin{shorteqns}
\fat{q}\super{(T)}&\equiv& \vect{q_i\super{(T)}}, \quad
\EQs...
...{Symm.}} & \dfrac{4+12\alpha\subsc{t}}{\ell}
\end{array} \right)
\end{shorteqns}



(D.17)



であり, $\alpha\subsc{t}$は式(4.85a)で定義したパラメータ である。 この $\alpha\subsc{t}$がせん断変形の影響の程度を代表するパラメータであり, せん断変形を無視する場合には前述のように せん断抵抗係数$G\to\infty$と考えればいいから, $\alpha\subsc{t}\to 0$と なる。 $\alpha\subsc{t}=0$のとき,式(D.18c)は 式(5.24)の初等梁理論の剛性行列に一致する。 実は式(D.17)はマトリックス構造解析 の基礎式としての 厳密な剛性方程式に一致する。したがって当然のことであるが, 式(D.9) (D.10)で表した支配方程式から 有限要素定式化しても同じ剛性方程式(D.17)が求められる。 この節を高次要素と題したが,以上のような意味ではこの要素の方が 有限要素法として適正なものと言えよう。


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Iwakuma Tetsuo
Mon, 18 Feb 2013 12:50:55 +0900 : Stardate [-28]8120.80