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ねじりの自由度も持ち立体的に挙動する棒も,章-6で 取り上げた基本的な分岐座屈の一つである 曲げ座屈と同じ様な分岐現象を示すことがある。 ここでは代表的な二つを紹介するが,基礎式の誘導や解法については 別途参考文献[125,126]等を参照のこと。
最初の例は図-7.38に示したような系の分岐現象で,
柱の曲げ座屈に非常に似ている。つまり,例えば図示したような
単純支持された棒を圧縮した場合に,ある外力レベルまでは
棒は単に縮むだけである。
これがある外力レベルになったとき,それまでの単に
縮むだけの変形特性とは全く異なるねじれ変形を発生させる
ことがある。これを柱のねじれ座屈
と呼んでいる。
図のような境界条件の場合の座屈荷重は
(7.89) |
と求められている。ここには断面の極2次モーメント
に関する回転半径であり
(7.90) |
で定義されている。ただし,自己展開型宇宙構造系のように非常に剛性が 低いものを除き,通常の鋼薄肉構造断面では, このが系の強度を支配するようなことは稀である。 このような座屈が生じる原因は,ねじり変形を許容した場合に断面に そりが発生して断面が平面でなくなり,軸線方向以外の方向への 軸力の成分が生じることにある。ただ,このそり変形が非常に小さい ため,上記のように通常の断面形状の鋼構造物でこの座屈が問題に なることはない。
もう一つの例は,図-7.39にあるような分岐座屈である。
単純梁に等曲げを作用させた場合には,-面内で曲げ変形が
生じるが,この外力モーメントがあるレベルに達した
ときに断面が面外に倒れてしまう
現象が起こる。これを梁の横倒れ座屈
あるいは横ねじれ座屈
と呼ぶ7.5が,
やはりある外力レベルまでの曲げ変形とは大きく異なる,
曲げねじりを伴う変形に突然移行する。分岐座屈の代表的な
例の一つである。
この場合の座屈荷重は
と求められている。 ここには式(7.78d)で定義された 断面の弱軸(軸)回りの断面2次モーメントである。 この横倒れ座屈は,次の節で説明するように, 鋼構造物の設計に当たっては必ず検証すべき 重要な要件の一つになっている。 軸力が同時に作用しているような場合の座屈荷重等については 別途参考文献[126]等を参照のこと。
曲げを受ける部材の引張り側は,材料そのものの強度まで耐えられるから,
許容応力設計法の考え方では
降伏応力を用いて曲げ引張り許容応力
(曲げ引張り強度
)を
で与えていい。ここには安全率
である。
これに対し,曲げを受けた部材の圧縮側の強度は,
前節の横倒れ座屈で支配されることがある。
つまり,例えば2主桁を複数の対傾構でつないだ場合,
その対傾構間隔を座屈長とする横倒れ座屈の可能性が生じる。
したがって,そうならないように材料そのものの強度とは異なる強度として,
曲げ圧縮許容応力
(曲げ圧縮強度
)を規定しなければならないと考えられている。
例えば図-7.23にあるI形断面の
場合には,Saint-Venantのねじり定数が比較的小さいことから,
式(7.91)の座屈モーメントから
算定できる座屈応力を
(7.93) |
のように近似できる[123]。
ここに
は降伏応力であり,は
横倒れ座屈に関する細長比パラメータ
で
(7.94) |
で定義されている。
ここにはフランジ幅であり,とはウェブと
フランジの断面積である。この座屈応力と細長比パラメータの関係は,
形式的にはEuler荷重のそれと同じである。
この理論値に対して,実際の曲げ圧縮許容応力は
のように規定[128]されている。図-7.40に その関数を,Euler曲線と比較して描いた。