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H.1 橋梁模型

H.1.1 ケント紙を使ったトラス

H.1.1.1 概要

東北大学工学部1年生を対象とした「創造工学研修」のテーマとして, トラス橋を見学し,有限要素法で設計し,それを元に図面を引いてケント紙に 寸法を落としたあと,ハトメで組み上げた模型を製作し,載荷して最終荷重と 自重の比で競争する研修を設定した。写真-H.1は 第1著者が作成したもので,方眼紙に描いて寸法を求めて それをケント紙に落とした状態を左の写真は示している。

図 H.1: ケント紙とハトメを使ったトラス模型の型紙と載荷条件
\includegraphics[width=.96\textwidth, clip]{sozodraw.ps} \includegraphics[width=.95\textwidth, clip]{sozotrss.ps} \includegraphics[width=.95\textwidth, clip]{sozostup.ps}

スパンは下弦材のハトメ間隔で300mmに,載荷はスパン中央の ハトメ部とし,2主桁間隔は55mm(製作時の補助として ハトメに通す綿棒の長さ)と指定し, 高さには300mm以内の制限を付けた。写真のトラスでは, 圧縮される上弦材は幅10mmのケント紙を3枚重ねたが, 引張り側の下弦材は1枚のままで5mm幅に細くした。 斜材も圧縮・引張りを勘案して,同様の措置をした。 そのできあがりと載荷状態を写真-H.1右に示した。 最終的に,この模型は自重が24.1gで2.8kgを載せることができた。 崩壊は,上弦材のガセット部付近の圧縮局部座屈によって生じた。

図 H.2: バルサ材による補強
\includegraphics[width=5cm, clip]{sozobals.ps}

学生の有限要素解析には,写真-H.3のような 第1著者作成のVisual BASICプログラムを使ってもらった。 このプログラムもまえがきに書いた方法で入手可能である。 実行したときに,Euler座屈する部材を表示できるようにしてあり, 学生には,特にそれに留意して圧縮される部材を太くする(ケント紙の 枚数を増やす)ように予め指示しておいた。 ただねじれに弱いので,写真-H.1の 模型の斜材のところを見ればわかるように,主桁同士は長方形の1枚のケント紙で 弦材同士をつなぐことにしてある。 また2007年度からは,1主桁当たり3部材だけ,1mm厚のバルサ板を 貼り付け(写真-H.2)てもいいことにした。 バルサ板は貼り付ける部材と同じ幅とするが, ハトメに通した綿棒で反力を取っていいことにした。2007年度の 最強模型は,自重が28.9gで5.2kgの荷重を支えた。 実績はhttp://mechanics.civil.tohoku.ac.jp/sozo/にある。

図 H.3: FEM解析プログラム(Truss-P.exe)
\includegraphics[width=.47\textwidth, clip]{sozotrsp.ps}

H.1.1.2 研修の手順と手引き

研修で配付する資料を付けておく。

H.1.1.2.1 A. 具体的な日程概要:

xx月yy日(金)16:40〜18:00:
ガイダンス20分程度と, 橋の力学についての講義60分程度。
xx月yy日 or yy日 or yy日(土)14:00〜2時間くらい:
赤石橋の現場見学。
xx月yy日(金)とyy日(金)16:40〜18:00:
簡易FEMプログラムでの 設計の仕方と,紙を用いた模型製作の仕方とを説明する。 これ以降の作業は各自自宅等(大学で相談に乗ることは可能で, 空いていれば演習室が使える)でやること。
xx月末かxx月初旬(金):
見学報告と提案するトラス形式の考え方と その設計過程についてのプレゼンテーションをし, その設計を現実化した模型への載荷実験をして強さを競う。 日程は,全員の都合で決定する(案:xx月yy日(金)16:40〜18:00)。

H.1.1.2.2 B. 橋の力学:

橋の構造の代表として,「桁」「トラス」「アーチ」の力学を,60分の講義で 説明する。参考資料は本文書の章-[*]。 トラス橋については,各自図書館等で文献調査をし,最後の模型作りの 基礎資料とする。このトラス橋の文献調査結果もプレゼンテーションに含めること。

H.1.1.2.3 C. 現場見学:

「トラス」でできた赤石橋を例として見学し, 習った力学が現場でどのような部材(部品)を通して活かされているのか学ぶ。 当日はカメラ(所有していない者は,コンビニエンス・ストア等で フラッシュ付きのレンズ付きフィルムを購入しておくこと)を持参すること。 また集合は,川内郵便局の前と(変更される場合もある)しておく。 講義で学んだことと現場見学での情報に加えて,各自,書籍やインターネット上の 情報を使って,特にトラス形式の橋の力学的魅力や工学的な特徴(審美的なことは 含まない)について思うところをまとめる。 それをウェブページ(HTML言語)あるいは スライド(パワーポイントのようなもの)上に 報告書の形でまとめておく。この報告書は最後のプレゼンテーションで用いる。

H.1.1.2.4 D. 30cmのトラス橋模型の設計:

学んだことに基づいて,30cmのトラス(下路とする)を設計する。 設計の目標は,橋全体ができるだけ軽く,かつ, より大きな荷重を支えられるようにすることである。 このトラスには,スパン中央の下の格点に荷重が載るものとする。 この設計の段階から,最終案を決定するまでの過程も,上述の報告書に追加する。

具体的なやり方の例としては,写真-H.1のように, 方眼紙にトラスの格点(結合点)の位置を落とし,次の情報を設定する。

以上の情報を用いて, トラス解析プログラム`Truss-p.exe'に データ入力し,スパン中央の下の格点に適当な大きさの荷重を載せ, 各部材の応力を計算する。 この最初の試行の計算結果を元にして, 格点の位置や部材の断面寸法を変更しながら, プログラム`Truss-p.exe'を 利用して,各自が最適だ(軽くて強い)と思う形式を決定する。

H.1.1.2.5 E. 構造解析プログラム`Truss-p.exe'について:

CDに保存して全員に配付する。 全パッケージアーカイブでの再配布は 可であるが,部分的に配布したり譲渡することは不許可である。 もし自宅にパーソナルコンピュータが無い場合には, 演習室等のコンピュータが使える。

  1. CDの`Truss-p'のフォルダをそのまま各自のコンピュータに コピーする。CD上では実行できない。
  2. `Truss-p.exe'を実行H.1する。
  3. まず,`Input'ボタンの右上のファイルのリストから 一つを選び(例えば`truss-1.dat'),その後`Input'ボタンを 押し,さらに`Analyze',次に`Post-Process'を押すと, 例題のデータ表示と,各部材の応力値の表が表示されるから, だいたいのことはこれで推測できると思う。 データを変更したりして試行して欲しい。 さてそれを終了して,再度`Truss-p.exe'を実行する。
  4. 画面下に操作ステップが簡単に書いてあるが,ここでは少し丁寧に述べる。

    \includegraphics[width=.85\textwidth, clip]{sozotp1.ps}

  5. まず,水色のWindow画面に格点(節点)情報を入力する。配付されている データ例では,節点の1, 2, 3は左右端と 載荷する中央点に設定してあるので,それを利用してもよい。 座標の原点は左端であり,$x$は右向きを正,$z$は下向きを正とし,$x$には 負は許さない。 データ例の最初の3点のデータを流用するなら,$x$ $0\le x \le 300$で,また 下路としていることから,$z$$z\le 0$になることに注意する。
  6. 最大で27節点が定義可能であるが,使わない節点の$x$座標値は$-10$に固定 しておくこと。ただし,節点番号は1から連続していなければならない。
  7. また両端の支持条件も設定する。これも,配付のデータを参考にすれば, やり方は明らかだと思う。
  8. 同じ水色のWindow画面で,スパン中央の$z$方向に荷重を入力する。 荷重の大きさは適当でいいが,できるだけ大きな値を入れておいて欲しい。 例えば100とか1000とかでいい。

    \includegraphics[width=.85\textwidth, clip]{sozotp2.ps}

  9. 次に黄色のWindow画面で弦材(要素)情報を入力する。 要素1の左端の節点は1番に 固定してあるので,その右端の節点番号と,それ以外の要素の配置を入力する。 また,断面積もそれぞれの要素毎に設定しておく。使わない要素の左端の 節点番号は$-1$に固定しておくこと。要素の順番はどうでもいいが, 要素番号も跳び跳びではなく,1から連続していなければならない。 断面積$A$の枠の右の枠は,上で述べた式の 断面2次モーメントという断面定数$I$である。 上の式や例題の値を参照しながら,適当に入力しておくこと。
  10. 必要な情報を入力し終えたら,また水色のWindowに 戻って,ボタン`Save'の右の欄に 適当なファイル名を考え,例えば`Truss.dat'と入力し, その後`Save'ボタンを押してデータを保存する。 この操作で`Truss.dat'というファイルに,設定した情報が保存される。
  11. ここで,各要素に生じる軸力を計算させるために,ボタン`Analyze'を 押す。窓下中央の白い小窓に`Analysis completed successfully'と出たら, 解析が成功している。それ以外のメッセージが出たり,あるいはエラーが 生じてダイアログ・ボックスが表示された場合には,データに誤りがある。 誤りの種類は次のようなものであろう。

  12. 計算が成功したら,ボタン`Post-Process'を押すと,緑色の 小窓が現れ,部材ごとの応力(抵抗力)が数字で表示されると同時に, 絶対値の大きい順に,赤黄青の色で区別された簡単な図が表示される。 この値の絶対値をできるだけ小さくすれば, 強い構造ができることになる。ちょっと詳細なヒントは

    ということである。

    \includegraphics[width=.85\textwidth, clip]{sozotp3.ps}

  13. 結果を見て,自分で納得のいく値になるまで, 格点の座標や断面積を設定しなおして,何回か解析を繰り返す。 水色や黄色のWindowに戻って 節点位置を変更したり,面積と断面2次モーメントを変更するには, この緑色の小窓をまず閉じる。 また,荷重は常に大きめにしておいて, 応力表示の表に`($\ast$)'マークが表示されるように心がける。
  14. 修正をしたら,ステップ10に戻る。
  15. 所定の計算が終了しこのプログラムを終了した場合,あるいは エラーでプログラムが強制終了された場合でも, 再度プログラムを立ち上げて,入力ファイルのリストの中から`Truss.dat'を 選んだ上でボタン`Input'を押せば, 最後に設定した情報を含むファイル`Truss.dat'が読み込まれるので, ステップ5からの作業を再開できる。
  16. また, 解析結果は常にCSV(コンマで区切られた)形式のファイル`Truss.csv'に 出力され,これを 用いて`Post-Process'表示が行われる。このCSV形式のファイルは エクセル等でも読み込める。
  17. もし,複数の情報データを保存したい場合には,ファイル名が 重複しないように注意すること。 ただし,`Truss.csv'には,最後の計算結果が重ね書きされているので 注意すること。

H.1.1.2.6 F. 模型の製作:

納得のいく設計ができたら,格点の座標値と断面積のデータを 元に,写真-H.1の方眼紙の下の紙に示したように, 各部材ごとの形をケント紙(厚さは1mmと仮定する)上に落とす (工場での「けがき」作業に相当する)。寸法の制限は次の通りである。

図 H.4: ハトメの周りは1cm四方を確保

デザイン(設計)段階での断面積との対応については, 例えば断面積0.3cm$^2$の部材は,幅1cmの細い帯を3枚重ねてもいいし, 幅1.5cmの帯を2枚にしてもいい。ただし,ハトメは15枚くらいのケント紙を 留めるのが限度であろう。また,注意しなければならないことは, 図H.4を見ればわかるように, 格点間距離よりも最低でも1cm長い部材を切り出さなければならないことである。 つまり,ハトメの穴の中心が設計図に描いた格点になるように, 模型を製作するからである。ここで使う ハトメの大きさを勘案すると,ハトメ用の穴を開ける部分は最小でも1cm角に するのが望ましい。そのため,1cmよりも細い部材を作る場合には, これも図H.4に示したように,穴の部分は1cm角を 確保した上で,部材の中央部のみ細くして,断面積はこの細い部分の断面積を 部材の断面積とする。 ケント紙には厚さがあるので,実際の細かい寸法どりについては, 各自工夫をして欲しい。

また容易には壊れないように,二つの主構の間は,一枚の長方形の紙を 用いた「横構」(写真-H.2参照)で剛結する(これも 実例を初回に見せます)ことにする。 まず主構の間隔を55mmとする。 そうすると,例えば80mmの部材同士を横に 結合する横構は,糊しろを5mmずつとって幅65mmで,長さは ハトメの部分を避けるために若干短くして $80 \mbox{mm}-
15 \mbox{mm}=65 \mbox{mm}$程度の 長方形の部品を作成し,糊しろ部分を折り,二つの主構の間を結合する。

図 H.5: 斉木先生による模型の例
\includegraphics[width=7cm, clip]{sozosik1.ps}

すべての部材が完成したら,主構を構成する弦材をすべてハトメで 結合し,二つの主構を組みあげる。 組みあがった主構同士を綿棒等の助けを借りて仮に立体化し(工場ヤードでの 「仮組み」に相当する),その状態で横構を貼り付ける。 その後,バルサ材を加工し,ハトメを通した綿棒に引っ掛けて完成とする。 なお,一つの部材の途中に別の部材をハトメで結合することは許容できない。 つまり,ハトメ穴はすべての部材の両端の2箇所のみにあるようにする。 おおよそ,一橋梁分はA3のケント紙が2枚程度は必要になると思う。 糊は普通のスティック糊で構わない。ハトメとハトメ・パンチ,それに カッターと替刃・カッティングマット・定規は貸し出すので,自宅等で使用し, 最後はすべてを忘れずに返却すること。 糊とケント紙等は各自,工学部の売店等で購入して欲しい。 またバルサ材が足らなくなったら,工学部の売店にもあるが, **模型(一番町通り三越前)か **模型(青葉通りで西公園通りから200mくらい仙台駅方面)で入手可能。 なお,作業中の怪我には十分注意すること。写真-H.5に 斉木功先生の模型を,図-H.6にその図面等を 示したが,24.0gで4.3kgを支えた。

図 H.6: 斉木先生の設計図面とケント紙への割り付け
\includegraphics[width=8cm, clip]{sozosik2.ps} \includegraphics[width=8cm, clip]{sozosik3.ps}

H.1.1.2.7 G. プレゼンテーション:

最後に,次の項目についてパーソナルコンピュータを用いて発表をする。 当日は,メモリ・スティックに必要なすべてのファイルを保存し, 大学のコンピュータを用いて発表すればいい。 パワーポイントH.2も使える。 不安がある場合には,事前に一度研究室を訪れて動作確認をして欲しい。

電子情報になっていないもの,例えば写真等のスキャンが必要な場合には, 研究室のスキャナが使える。

H.1.1.2.8 H. 耐荷力試験:

写真-H.5のように 模型をセットアップし, 中央の受け皿に重りを徐々に加えていき,耐荷力を測定する。 この耐荷力と橋梁の自重の比を用いて

\begin{displaymath}
p\equiv\dfrac{\mbox{支えたおもりの質量}}{\mbox{模型の質量}}
\end{displaymath}

を測定し,これ(性能performance)が大きい方が強いものとする。 結局,写真-H.1の模型の質量は24.1gで,2.8kgの 重りになったときに中央の上弦材が座屈し,それ以上の 荷重を載せられなくなった。 したがって,この模型の性能は $p=\dfrac{2800}{24.1}=116$となる。 過去の実績例を表H.1に示しておいた。


2007年度の実績
表 H.1: 過去の実績
模型 質量 (g) 荷重 (kg) 性能$p$
A 28.9 5.2 180
B 29.8 3.2 107
C 24.6 2.3 93.5
D 31.7 2.9 91.5
E 35.9 2.8 78.0
2009年度の実績
模型 質量 (g) 荷重 (kg) 性能$p$
A 38.6 6.3 163
B 19.9 3.2 161
C 25.0 3.0 120
D 56.7 2.8 49.4
E 14.6 0.50 34.3
F 36.1 1.2 33.2

H.1.1.2.9 I. 成績評価の仕方:

  1. 全員の模型の性能$p$の値を順番に並べ, その最大・最小値をそれぞれ$p\subsc{max}$, $p\subsc{min}$とする。 ただし $p\subsc{max}-p\subsc{min}<\dfrac{p\subsc{max}}{10}$の 場合には $p\subsc{min}=\dfrac{9\times p\subsc{max}}{10}$とする。
  2. プレゼンテーションを50点満点で教員が主観的に評価する($o$)。
  3. 努力賞として30点を全員に一律配分する($e$)。
  4. 性能$p$を用いて設計技術を評価した上で,総合得点を以下の式で決定する。

    \begin{displaymath}
\mbox{総合得点}\equiv o+e+
20\times\dfrac{p-p\subsc{min}}{p\subsc{max}-p\subsc{min}}
\end{displaymath}

  5. 60点以上が合格である。合格区分は通常の科目のそれと同じとする。

H.1.2 トラスと桁のペーパークラフト

オープンキャンパスにおける使用を念頭に置いて, 東北大学の山田真幸助教がデザインしたオリジナルの型紙である。 どちらも仙台市内の橋をモチーフにし, 型紙(省略)のトラスは赤石橋を, 型紙(省略)の桁は牛越橋をイメージした。 トラスには橋銘板の見本も部品に入れてあるが, 自分の苗字等の好きな名前で作ると楽しい。 色も自由に塗ってみて,例えば景観の検討等をすると面白いかもしれない。 型紙の実線は切り,破線は折る。黒い部分は取り去る。 普通の糊よりも,グルーガンを使った方が簡単に作れるが, ストローが溶けないように注意しよう。

多くのペーパークラフトとは異なり,ある程度の荷重を支えることができるので, 鉄道模型のジオラマ等で使う廉価版橋梁にもなる。 ただし,本当に支えられるかどうかは予め確かめて欲しいが, オープンキャンパスで橋の中央におもりをぶら下げた実験では, トラスには3kg程度,桁には1.7kg程度が載った。


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Iwakuma Tetsuo
Mon, 18 Feb 2013 12:50:55 +0900 : Stardate [-28]8120.80