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今後の課題

2 年間の委員会活動において検討したことを雑多に並べてみた. あいにく,当初目的はほとんど何も達成できていないとの反省がこの 報告書の要点になりそうだが, 研究討論会では非常に多くの意見交換ができたことから, 教育が大切であることは論を待たない.優秀な学生を土木に引き寄せ,土木を 好きにして社会に送り出す. 不静定ラーメンは解けなくとも,力学の本質に迫る感覚を身に付けた 土木技術者を社会に送り出す. このようなことが大学に課せられた大切な使命のひとつである. 学生の目が輝いているかどうかが教育の一つのバロメータであり,情報の 氾濫した現代社会において学生の興味を大学に引き付けておくためには 絶え間ない努力と工夫が必要である.

教育が大切なテーマであるにも 関わらず,学会活動の中ではなおざりにされがちである.研究的委員会に 比べてインセンティブが無いからであろうか. 全体的に土木教育をカバー する委員会があり十二分にその役割を果たしておられる一方で,そうした 全体的な検討と並行して,個々の分野において何をどう教えるべきか という具体的な検討も大切である.日々どう教育するべきかに苦悩する 教官に手を差し伸べ,一緒に問題に対処すること,これは土木学会の 重要な使命であり,その存在意義をさらに高める活動となろう.この 委員会の意義はそうした主張の提示にもあった. 幸い,新しく発足した応用力学委員会の許に,力学教育の小委員会が 設置され,当委員会でできなかったことを引き継いでいただく予定である.

検討できなかったもののうち,重要な課題を列挙すれば,現場側からの 意見の反映,教室での教え方であろうか.また,元々この小委員会の 委員会名称にあったもので何も検討がなされなかった「研究」について, 教育という面から見た力学に関する研究の在り方というものも今後 考察し続けていかなければならないと思われる.このことは,単に 力学に興味を持ってもらう学生を増やすためだけではなく,後継者を 育ててさらに必要とされる構造工学を現在の正常な状態に保つためにも 必要であろう.

研究討論会では企業の方のご意見を頂くことができたが,この委員会の 立場は,大学側の論理で教育を考え,大学側から官庁・企業にまず球を投げて みるというものであった.官庁・企業から委員に加わって頂いてはという意見も あったが,まず大学としての考えを集約することが先決と判断した.この球を 大学以外の立場から新設の小委員会で近いうちに是非投げ返して頂きたい. 大学の教育に期待するものは何なのであろうか? この報告書に盛り込まれている新しい考え方には賛同していただけるのであろうか? あるいは大学教育には大した期待を抱いていないのであろうか?是非 いろんな変化球を投げ返して頂きたい.

委員会で議論する中で,「入社試験に出るからこれを教えない訳にはいかない」 というような意見が出た.このような形で大学教育の足を引っ張ることもある ことを改めて多くの人にご理解いただきたい. 「・・・の定理を用いて解け.」といった様な問題はいかがであろうか.その 「・・・の定理」が過去の遺物となっていることも多い. 入社・国家公務員試験で資格能力を試される際に, 何が学生が知っているべき 事柄で,学生をどのような能力で判断するべきなのか.大学と官庁・企業との 緊密な情報交換が必要である.

大学での期末試験でも,演習で反復練習した問題の応用くらいなら 比較的容易に得点できるが,本当は,始めて見る問題を限られた試験 時間中に解くのに必要な基礎的な情報,例えば「重ね合わせの原理」等の ような項目を教え,かつそれを確認できるような問題を出すべきであろう. 過去の問題集を勉強する際,応々に陥る対策は単に解法を覚えることである. 覚えた解法で解けるような問題のどこに力学の本質があるのか,教える側, あるいは出題する側は考え直す必要があろう.

教える内容に関する議論に時間を取られ,教え方にまで議論を発展させることが 出来なかった.学生の理解や興味は,内容だけでなく教え方にも大きく依存している. 教官の熱意が最も重要であることは間違いなかろうが,板書を写すことに追われる ばかりの講義では,今の学生はついていけないかも知れない.情報機材をうまく 組み合わせることにより,より効果的な教育が可能となることが期待される. 現在既に実用化されている World Wide Web の Mosaic による利用に象徴される インターネットを介した情報伝達手段は,従来の教育の方法を覆す 可能性を秘めている.教材の蓄積と共用が容易となり,教官の負担を軽減することも 可能と思われる.情報基盤は今後の社会基盤の中心的存在となることが予想される. いろいろな講義でそのような手段を利用することにより,高度情報化社会に適用できる 人材を育成することも重要であると考えられる.

個々の教官がそれぞれ教育の問題に対して孤独な努力を重ねているのが現状である. どうしてもっと助け合うことが出来ないのであろうか?委員会の議論では,大学教官 に,教え方について研修する機会が全くないことも一つの問題点であるという指摘が あった.この委員会を通して,各委員の教育に関する考え方,教育に対する姿勢を 互いに知り合っただけでなく,それぞれの教え方の工夫を披露頂いたことも大きな 収穫であった.このような機会を拡げ,多くの教官との交流の場が持てれば,大学 が抱える制度的弱点を補うことができるのではあるまいか.

最後に,この委員会では新しい試みとして, 一部の委員の間で mailing list と呼ばれる電子的な媒体を通した議論および 資料交換と回覧とを行った.今後の学会における研究委員会の 在り方についても何等かの提案ができたのではないかと思っている.



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Tetsuo Iwakuma
Sat May 2 11:16:35 JST 1998; Stardate [-30]1090.4